『ジャスティス』(...And Justice for All)['79]
監督 ノーマン・ジュイソン

 齢八十三で子を為したと今話題になっているアル・パチーノの四十四年前の主演作だ。弁護士歴十二年、離婚歴ありのアーサー・カークランド(アル・パチーノ)の直情径行が取り立てて特異には映ってこないイカレタ連中だらけの法曹界は、後の月の輝く夜に['87]を思わせるところがあったが、弁護士の適格審査をする倫理委員会のゲイル(クリスティン・ラーティ)と言い争いながらデートに誘う伊達男ぶりは、日常的に死に魅せられているレイフォード判事(ジャック・ウォーデン)やら、殺人鬼を無罪にして釈放後に子供殺しをさせてしまったことへの良心の呵責に苛まれて剃髪するのはまだしも、裁判所内で錯乱して奇行を繰り返していた相棒弁護士のジェイ(ジェフリー・タンバー)、初犯のマギーの執行猶予をうっかりミスによって逃して実刑に処された同僚弁護士の悪びれなさからすれば、アラフォーにしてなお熱血の域に留まるものだと思わされる。

 まるで日本の時代劇の悪代官さながらだったヘンリー・T・フレミング判事(ジョン・フォーサイス)の破廉恥な乱行すらも、人権と権力的処罰という厳粛なる社会倫理の元に審議されるべきものを法廷闘争という勝負ごとに貶めたうえで、達弁に負かされまいとするプレッシャーに晒され続けるストレスがもたらした歪みであるような印象を残していた気がする。

 法曹たちにおける職業倫理とは、いったい何なのだろう。被告人として出廷した者の利益に最大限資することが弁護人の責務ということからすれば、アーサーが最後に採った行動は、明らかに倫理違反ということにはなる。だが、法廷の場では、ひたすら杓子定規に法律手続きに忠実だったフレミングが行っていた、逐条規定に厳格であることが当該規定の法定趣旨や理念から外れるような運用を図ることに対しては、真摯な謙虚さが求められて然るべきだと僕も思う。それは、実際のところの強姦事件におけるフレミング判事の有罪無罪には関係のないことだ。

 とはいえ、アーサーから実のところを問われて密かに有罪であることを認めたうえで面白くなったと嘯き、アーサーのお手並み拝見のような思い上がった態度をとるばかりか、法廷に証言者として姿を見せた被害者女性を一瞥していい女だろ、もう一回やりたいなどとアーサーの耳元で挑発した慢心判事の壊れようは、やはり誰よりも頭抜けていて耐え難く、とてもアーサーに持ち堪えられるはずがないように思った。

 初犯で執行猶予が付くはずだったのに、実刑判決が出たことに絶望して命を絶ったアギーにしても、証拠提出が三日遅れただけで無実の収監を余儀なくされた挙句に、保身を図るフレミングの奸計によって射殺に追い込まれたと思しきマッカラーにしても、本来の社会正義からは、およそ遠いところに置かれていて無惨だった。
by ヤマ

'23. 6. 5. BS松竹東急銀座よる8シネマ録画



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