『雨の訪問者』(Le Passager De La Pluie)['70]
『バラキ』(The Valachi Papers)['72]
監督 ルネ・クレマン
監督 テレンス・ヤング

 ブロンソン好きの高校時分の映画部長からの課題に応じて連続視聴をしたものだ。僕には、ブロンソンへの思い入れは特にないけれども、同世代の者としてマンダムのCMで一世を風靡した男の世界を体現する彼を知らないわけもない。だが、『荒野の七人』の寡黙で優しい力持ちやら『大脱走』のトンネル屋、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェストのハーモニカなどの髭なしブロンソンのほうが好みだ。

 先に観た『雨の訪問者』は、いくらオープニングに「不思議の国のアリス」の一節が示されたからといって、余りに釈然としない人物造形と展開に唖然というか呆然としてしまった。

 髭の捜査官ハリー・ドブス大佐(チャールズ・ブロンソン)とメランコリー・モー(マルレーヌ・ジョベール)が出会うパーティで流れたフランシス・レイによるワルツには聞き覚えがありつつも、未見作のように感じていたのだが、ドブスがモー夫人をラブ・ラブと呼ぶその声に妙に聞き覚えがあったから、テレビ視聴かなにかで遠い昔に観ているのかもしれない。余りと言えば余りな設定と運びの“不思議の国”ぶりに忘却の彼方へ行っていたようだ。

 ほぼ出突っ張りのマルレーヌにまるで魅力を感じられないところが僕にとっては致命的だった。これまた何ともヘンな“げじげじ”友人ニコールを演じていたジル・アイアランドのほうが遥かに目を惹いていたように思う。

 ところが、件の映画部長によると中1の冬に…感動し、その翌週から映画大好き人間になり、翌週から映画館通いを始めた!という記念碑的な作品とのことで、吃驚してしまった。部長からは、観た時期にもよるねとのコメントがあったが、全くそのとおりだと改めて思った。

 実感的な初めての映画との出会いは、同様の意味合いでの女性との出会いにも似て、各人それぞれにおいて唯一無二のものであって、当の映画や女性に対する第三者意見など問題外としたものだ。もっとも『雨の訪問者』の場合は、ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞らしい。僕にはまるで解せないけれども…。


 特集上映として収録されていた翌年の作レッド・サン』は、二年ほど前に再見したばかりだったから割愛した。翌々年の作品となる『バラキ』は、公開当時以来の再見だ。同年のゴッドファーザー監督 フランシス・フォード・コッポラ)のほうが世評が高かったが、僕は当時、マフィアのろくでもなさをより身も蓋もなく描いている本作の実録スタイルのほうを買った覚えがある。言うなれば、高倉健的なスタイリッシュな任侠映画と菅原文太的な実録的なヤクザ映画との違いのようなものだという気がする。

 やはりブロンソンは髭なしのほうが演技が映えるようだ。本作でも殺された幹部ガエタノ・レイナの娘マリア(ジル・アイアランド)との結婚の御膳立てを後のドン・ビートことヴィト・ジェノヴェーゼ(リノ・ヴァンチュラ)にさせるような大物なのやら暗殺実行犯や運転手に使われる小物なのやら判然としない、どちらにも振舞える得体の知れなさを達者に体現していたように思う。

 リノ・ヴァンチュラが貪欲で狡猾な実に食えないジェノヴェーゼを奥行きのある貫録で演じて見せ、ジョセフ・ワイズマンが蔵書に囲まれたインテリであるサルヴァトーレ・マランツァーノをマフィアの大ボスたるカポとして理知的に演じ、ダンディで酷薄そうなラッキー・ルチアーノ(アンジェロ・インファンティ)、愚直なボス代行アナスタシア(ファウスト・トッツィ)と各キャラクターの際立ちも整っていたように思う。

 ただジョー・バラキ(チャールズ・ブロンソン)が何ゆえ“血の掟”を破って公聴会での証言を行うことにしたのかについて、ジェノヴェーゼとの子供の数の違いが何を意味しているのか測りがたく、どうも腑に落ちて来なかった。結局は、ジェノヴェーゼが歴代のボスの戒めていた麻薬密売に手を出したことが仇になっているような気がしたが、収監中の特別待遇には呆れるほどのものがあったということが、実録スタイルのなかで描かれていて目を惹く。

 部長によれば、ブロンソンがもし!アカデミー賞主演男優賞を取るとしたらこれだとのことだったが、僕も同感だ。髭ブロンソンは、やはりテレビ画面のほうがお似合いだという気がする。また、当時の雑誌「映画評論」で、佐藤忠男さんが「仁義なき戦いはバラキを超えた」という表題で、「仁義なき戦い」評を書いていたと教えてくれた映友もいた。確かめてみると、深作・笠原コンビの『仁義なき戦い』第一作は、『バラキ』の翌年の作品だった。同作には、もしかすると本作が影響を与えていたのかもしれない。
by ヤマ

'23. 1.17,24. WOWOWプラス録画



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