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『アンダー・ユア・ベッド』(Under Your Bed)['19] 『ベロニカは死ぬことにした』(Veronika Decides To Die)['05] | |||||
監督・脚本 安里麻里 監督 堀江慶 | |||||
先に観た『アンダー・ユア・ベッド』は、江戸川乱歩の屋根裏とは逆にベッド下かと、公開時に気になっていた作品だが、高良健吾の演じる「三井君」の囚われた偏執よりも、彼が十一年越しで執着している大学の同窓生、佐々木千尋(西川可奈子)が結婚し一児を儲けたばかりの夫である浜崎(安部賢一)のDV男ぶりの凄惨さのほうが痛烈だった。役者の三人は揃って大変な熱演で、凄みさえ感じられたように思う。 だが、DV男を描いた映画となると、同日に観たばかりの『ザリガニの鳴くところ』とも同じく、女性による監督・脚本作品であるところが目を惹くわけで、その描出された人物造形にしても、人の生における是非もない営みの深遠さにおいても、比較にならない物語世界だったような気がした。ひたすら痛々しさが残って妙に遣り切れない思いが湧く。最後にDV夫から解放され、千尋が「三井君」の名前と存在を思い出しただけでは、とても救われないような味の悪さが残るように感じた。 翌日に観た『ベロニカは死ぬことにした』も公開時から気になっていた作品なのだが、真木よう子演じるトワが28歳と言うのを聞いて、この時分、彼女は幾つだったのだろうと些か驚いた。まだまだ野暮ったさの残る本作での彼女について、手元にある当時のチラシには「『パッチギ!』で鮮烈な印象を残した若手女優」とあって納得。最初に「プロデュース・脚本 筒井ともみ」と大きくクレジットされただけあって、チラシの最上段に枠囲みで彼女の意気込みが掲載されていた。 若い時には「選択するには早すぎる」と留保し、28歳になると「もう遅すぎる」と感じ、自分には何もないとの空虚さから「死ぬことにした」などというデコ眼鏡の図書館司書トワが大量の睡眠薬服用自殺を図るわけだが、未遂に終わって運び込まれた精神科病院というのが、妙に観念的な異世界を造形していて、院長(市村正親)、婦長(荻野目慶子)、看護師(片桐はいり)、介護士(神戸浩)と、皆々そろって入院患者以上の曲者ぶりで、「安全な混乱」という居心地の良さからか退院しようとせずに自由意思で病院に留まり続けている元弁護士ショウコ(風吹ジュン)や、医師(田中哲司)の処方で幽体離脱をして浮遊するのが趣味というサチ(中嶋朋子)、『サンセット大通り』のノーマを想起させる紅子(淡路恵子)など、やたらと頑張った配役の贅沢さに感心しつつ、これはトワが未だ醒めずにいる夢世界なのではないかと思ったりした。そう考えると、この風変わりな病院世界も、いかにも図書好き妄想系女子の趣味として納得感のある造形のように感じられたのだった。 すると、案の定、なんじゃこりゃの経過の元、ショウコからの「あなたは本当に幸せなセックス、したことある?」との問い掛けからサチの言う「あなたが、あなたから離れられたら、もっと自由になれるのに」との勧めに従ったオナニーを、シャガールもどきの絵を描く患者青年(イ・ワン)の眼前で晒すことへと踏み出して、かつての「嫌いな私」と訣別し、トワ自身が語る「私は今、輝く朝日を浴びている。もう一度生きることに決めた」との結びに至った。 オープニングで海に投げ入れられた睡眠薬の錠剤瓶の沈下と重なるエンディング画面が現れたということは、そこから浮かび上がったトワの姿こそが、大量に服用した睡眠薬からの目覚めということなのだろう。そうとでも解さなければ、院長がトワに投げ込んだ礫のような言葉「石だって成長するって知ってるかい?」を契機に得た彼女の再生が腑に落ちて来ない作品だったように思う。 少女時代にピアノコンクールで失敗して挫折を味わい、道を見失ったトワが自由を求めて始めたオナニーは、それゆえピアノの鍵盤に指を躍らせる場面から始める必要があったのだろう。そのピアノに背を向けて凭れたまま股間に指を躍らせていた開けた胸のたわわさは噂通りのものであったが、やけに暗い画面の光加減や被さった髪の具合などからは、ボディダブルのような気がしなくもなかった。それにしても、トワの母親を演じていた多岐川裕美から往年の華がすっかり失せていていささか驚いた。面立ちはそう変わっていないのに、単なる加齢とも思えぬものが感じられた。 | |||||
by ヤマ '22.11.23.& 24. abema.tv. | |||||
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