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『nude』['10] 『人妻』['13] | |||||
監督・脚本 小沼雄一(共同脚本 石川美香穂) 監督・脚本 城定秀夫 | |||||
ひょんなことからネットの abema.tv でも無料視聴のできる映画配信をしていることを知ったおかげで、ちょっと気になりながらも、当地ではなかなか上映されることのない作品を思い掛けなく観ることができた。BS松竹東急のようなキメ細かく無粋な暈しもなく、全編まるまる放映されていて大いに感心した。 最初に観たのが『nude』だ。公開時となる十二年前のチラシが手元にあって、そこに「国民的AV女優」と記されている“みひろ”のAV作品を僕は一度も観たことがないのだけれども、エンドロールにあった出演クレジットからすると、みひろ(渡辺奈緒子)が仕事に臨めなくなったときに諭しに現れていた先輩AV女優を演じていた女性なのだろう。渡辺奈緒子とは、むしろ対照的なキャラクターを感じたが、劇中のみひろ以上に目を惹くチャームが表情にあって気になっていたところだったので、原作者のみひろだったのか、なるほど人気があったのだろうと得心した。劇中でみひろが書いていた小説の「彼女の物語は始まったばかりだ」で終えた映画作品からは十二年の時が経っているが、その後の彼女は、どうしているのだろうと思った。 映画作品としては、「本当のセックスってなんだろう。好きな人とするのは本当で、仕事でするのはニセモノ。どちらもやることは一緒なのに…。」と映画化予告のチラシに記されていた部分よりも、高校時分の親友さやか(佐津川愛美)や恋人の英介 (永山たかし)との関係の変質に対する葛藤が中心になっていたように思う。芸能事務所社長兼スカウト兼マネージャーの榎本(光石研)のキャラクターは、原作でも同じような描かれ方だったのだろうかと、ふと気になった。 それから二十日ほどして観た『人妻』は、五ヶ月前にスクリーン観賞した『愛なのに』や、七月に衛星放送録画を観賞をした『アルプススタンドのはしの方』を撮った城定秀夫の十年近く前のピンク映画だ。 本作でタイトルの「人妻」を演じていた七海なななどという回文のような名の女優も、『nude』で見掛けたみひろと同じく、元AV女優らしい。劇中の暴漢から言われていた「地味、暗い」といった形容が遠からずと思えるようなものを持ちながらも、眼鏡っ娘を演じて不思議な魅力のある女優だったように思う。 九年前の劇場公開時は『人妻セカンドバージン 私を襲って下さい』というタイトルだったらしいが、「襲う」を前に出すのは見当違いの作品だったような気がする。わずか六十分余の間に、実に様々な妄想系エロが織り込まれていて、覗きもあれば、愛撫されながらの相方それぞれへの電話だとか、夫が隣室で寝ているトイレでの絡み、薬物セックスに耽るカップルやら、スパンキングなども取り入れられていた。 庭付き一戸建てに住む専業主婦というのは、2013年当時の勝ち組女性の象徴的ステイタスとされていたものだったような覚えがあるが、それを得ながらもセックスレスで身も心も乾いていると思しき人妻の姿が描かれていた。左手の人差し指を包丁で怪我しながら、手当てを施すことよりも優先して夫を送り出す際の“リレーのバトンのように靴ベラを手渡す朝のルーティーン”をこなしていた。そのときの“結婚指輪を嵌めた左手から滴り落ちる血”と、続く洗濯の場面で見つける“夫がラブホテルから持ち帰ったライター”によって、彼女の置かれている状況が序盤で端的に示されていたわけだが、刃物を持った血塗れの男がやおら逃げ込んできて人妻の生活が一変するという、ありがちではあるけれども、シンボリックな物語だった。 最初は「ダメ、しばらくしてないから中は痛い…」と怖気づくものの暴漢のほうを恐れはせず、「ヘンな女だな」と言われつつ妄想系エロのコース料理を次々と食していくうちに、性と生のエネルギーに目覚めた人妻から、遂には追いかけられながら逃げ走る羽目になる暴漢の風情が、なかなか可笑しかった。虚弱な喘息持ちだったはずが、車と衝突しても怪我しない強靭なセックスマシーンに生まれ変わった麻子(七海なな)の餌食になるのは、今度は近所の高校生であることを仄めかしていた、ありがちなラストに笑った。乱歩や阿部定なども想起させてくれて、随所ににんまりしながら観た。 | |||||
by ヤマ '22.11.3.& 21. abema.tv | |||||
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