秋の定期上映会
“合田佐和子が描いた銀幕のスターたち”
 https://moak.jp/event/performing_arts/autumnscreening2022_silentfilm.html
★Aプログラム  マレーネ・ディートリッヒ
『間諜X27』
 (Dishonored)['31]
監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
『ブロンド・ヴィナス』
 (Blonde Venus)['32]
監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
★Dプログラム  マリリン・モンローとヴェロニカ・レイク
クラッシュ・バイ・ナイト
 (Clash By Night)['52]
監督 フリッツ・ラング
『ガラスの鍵』
 (The Glass Key)['42]
監督 スチュアート・ヘイスラー

 最初に観たのは『間諜X27』。マレーネ・ディートリッヒの出演作で、僕が観ているのは『モロッコ』『嘆きの天使』80日間世界一周『黒い罠』くらいしかないなかで言うのもおこがましいが、本作こそが随一の彼女のための映画だと思った。

 雨降るなか右脚のストッキングを引き上げるオープニングから、シルエットで脚を見せ、ソファーの肘に脚を掛けた姿で腰を下ろす場面が続く。ラストの銃殺刑前にもオープニングと同じく、右脚のストッキングを引き上げていた。さすが「100万ドルの脚線美」と謳われた女優に相応しい作品だと感心したのだが、それ以上に目を惹いたのが徹底的にフェティッシュな見せ方で、脚立に上がっている脚、ピアノで♪ドナウ河のさざ波♪を弾きながら伸ばした脚、猫真似をしたときの折った脚、脚ばかりでなく、仮面舞踏会に現れたときの口しか見えない仮面で強調されていた唇、娼婦姿から始まり、ドレス、メイド姿、軍服と、コスプレにも余念がなかった。

 物語的には、娼婦にまで身を落としたコログラッド大尉未亡人(マレーネ・ディートリッヒ)が、娼婦以上に恥ずべき仕事と明言されながら求められた女スパイになる際に既に恥ずべき人生、栄えある死が得られれば幸運と肚を括って臨みながら、栄えある死とは、国に奉じるものではなく愛に奉じるものと悟り、実にかっこよく、言い訳一つせず悪い女なのでしょう、それだけです。と言い残して銃殺刑に処され、女でなければ、史上最高のスパイになったことだろうとオープニングクレジットで示されていたことの顛末を見せるものだった。

 続けて観た『ブロンド・ヴィナス』では、マレーネ・ディートリッヒも混じった裸女の群れの水浴で始まるオープニングに驚き、およそ彼女には似つかわしくなさそうな子持ちの主婦役に意表を突かれたが、放射線被曝の治療を受けに、欧州にまで行く必要がある夫の治療費1500ドルを稼ぐためにショービジネスの世界に舞い戻るヘレンを演じて、改めて華あるステージ衣装の似合う女性であることを見せつけていたように思う。

 そのような彼女が平凡な家庭に戻りたい女心を切々と演じるところに妙味のある作品で、彼女に惚れこんでショービジネスの世界を辞めさせて囲い者にした富豪のニック・タウンゼンド(ケーリー・グラント)の仕舞いの付け方がなかなか粋で見事だった。


 翌日の午後に観た『クラッシュ・バイ・ナイト』は、マリリン・モンローのフィルモグラフィとして僕の頭にはなかったので、チラシに記されていたブレイク直前の初々しい姿を見ることができるとのコメントに楽しみにしていた作品だ。だから、タイトルさながらにクラッシュする波で始まったオープニングにて三番目に大文字でクレジットされていたことに意表を突かれた。早々に若々しい水着姿を披露していて喜んだのだが、物語的には端役に過ぎなかった。何と言ってもデマート夫人メイを演じたバーバラ・スタンウィックを見せる映画で、ペギーを演じたマリリンの水着以上に挑発的な下着姿を幾度も見せていたように思う。

 作品的には、ロバート・ライアン演じるマッチョな映写技師アールの一体どこがいいの?と思えるところに難があって、確かに少々間が悪く鈍臭い漁師のジェリー・デマート(ポール・ダグラス)の発するお前ら動物か。動物なら人を傷つけないよう檻に入れられている!との怒号も尤もな悪びれのない寝取りの有様に、昨今の我が国の政治家連中さながらの、ある種の見境の無さの度が過ぎる感じがどうにもいただけなかった。

 所帯など行き場のない女が逃げ込むところだと言っていたのもアールだったと思うが、彼が見越した通りに主婦業の似合わない女性ということでは、前日にディートリッヒを観ているものだから、バーバラ・スタンウィックの健闘も少々分が悪くなるのは止むを得ないところだろう。本作よりも二十年前の『ブロンド・ヴィナス』と同じ“子はかすがい”で収拾を付けるにしては、同作のヘレンが味わったほどの苦衷もないままの変心に映ってきて釈然としなかった。ジェリーの叔父(J・キャロル・ネイシュ)なども含めて、登場人物の概ねがろくでもない輩ばかりで、それが人間の有体だと言われても、メイやアールへの共感が湧いてくるものではなかったような気がする。

 続いて観た『ガラスの鍵』は十年遡る作品で、二週間ほど前に観覧した合田佐和子展で魅せられた『ベロニカの夢』のモデル、ヴェロニカ・レイクがお目当てだったのだけれども、彼女よりもアラン・ラッドのかっこよさが目を惹いた。しかし役柄的には、彼の演じたエド・ボーマンの盟友であるポール・マドヴィグ(ブライアン・ドンレヴィ)のほうがお得な役だったように思う。リーフレットにはアラン・ラッドとヴェロニカ・レイクの魅力が光ると記されていたけれども、僕的には、エドが入院していた病院の担当看護婦がヴェロニカよりも好かった気がする。


公式サイト高知県立美術館


by ヤマ

'22.11.19.& 20. 美術館ホール



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