『ツユクサ』
監督 平山秀幸

 小林聡美が主演で、早々に太極拳もどきの体操が出てきたりする、少し外れたオフビート感の漂うキャラクター群の物語によって、十五年前に観たかもめ食堂などの一連の小林聡美ムービーを想起させながら、かの作品群に漂っていたお洒落なスローライフ趣味とは、かなり異なる地平に向っている感じが好もしかった。

 てっきり原作もののエンディングを脚色した作品かと思ったが、エンドロールを眺めていても脚本の安倍照雄までで、原作表示が出なかったから、オリジナル脚本のようだ。

 隕石は不断に落ちてきているものだとしても、現物を手にしたりすることは滅多になく、ましてや衝突したなどという話は聞いたことがないくらい珍しいものながら、本作でも描かれたとおりあり得なくはないように、風変わりな人物たちの風変わりな関係のいずれも、あってもおかしくない、起きてもおかしくない事々のように思え、微笑ましかった。

 前日にラプソディ オブ colorsを観たばかりということもあるが、本作の登場人物たちの風変わり程度など、風変わりのうちには入らないよう思えた。とはいえ、芙美(小林聡美)の友人で、夫に先立たれていた妙子(江口のりこ)の人物造形は、なかなか面白かった。

 だからこそ、小学生の航平(斎藤汰鷹)の言う大人たちは嘘ばっかりだ、僕はふうちゃん(小林聡美)の子供でもなければ、捕鯨船乗りなんて嘘っぱちだとの大人の言葉の虚実の底に潜む真情に実があればこそ、航平が彼の心優しい継父(渋川清彦)を偽物呼ばわりしたときにきっちりと釘を刺していた芙美の姿が沁みてきたのだろう。虚実や真偽、風変わりとまともの境目などないのだから、それに囚われないことが大事なのだろうと改めて思う。

 そして、息子を死なせたのは自分のせいだという囚われから逃れられなかったであろう芙美のなかでヘンに口の立つ航平から得ていたものが大きかったからこそ、彼から貰った隕石をペンダントにした飾り物を海に投げ棄てることに意味があるのだとも思った。東京に戻ったはずの歯科医の篠田吾郎(松重豊)が訪ねてくるのだから、鯨はやりすぎで必要なかろうという気もしたが、航平を投げ棄てて吾郎を迎える形にだけはしたくなかったということなのだろう。

 劇中に草笛で出てきた、中山千夏の歌うあなたの心にを最後に久しぶりで聴いたように思うが、とても懐かしく良い気持になった。僕が航平の年頃の時分の歌だ。
by ヤマ

'22. 5. 7. TOHOシネマズ2



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