『ブロンコ・ビリー』(Bronco Billy)['80]
監督 クリント・イーストウッド

 オープニングソングで示されるように、カウボーイという存在が子供の好きな道化師というか、見世物になってしまった時代を舞台にした、西部劇へのオマージュ作品であったと同時に、先の合評会で課題作だったアリスの恋』と『ハリーとトントがそうだったように、本作もまた“居場所”についての映画だった。

 生身のカウボーイは一度も観たことがないという“ブロンコ”ビリー・マッコイ(クリント・イーストウッド)の主宰するワイルド・ウェスト・ショーの面々が受刑者仲間だったとは思い掛けなかったが、さればこそ、居場所の問題が切実なものとして立ち現れてくる。

 だが、決してシリアスドラマではなく、ジャブのように小刻みな笑いを随所で繰り出してくる軽妙さが実にいい。父親からの莫大な遺産を継いだアントワネット・リリー(ソンドラ・ロック)の振り向きざまの泥パック顔に魂消る形式夫のジョン・アーリントン(ジェフリー・ルイス)や、暗転画面での台詞のみのやらしい舌を耳から出して、とても現代とは思えない西部劇仕立ての銀行強盗やら、その撃退法が西部劇そのままであることにも笑ったが、最も可笑しかったのは、ヤケだと言って企てた列車強盗が九十年前とは列車のスピードがまるで違っていて、まったく箸にも棒にもかからない有様だった。

 これを欠かすわけにはいかないとばかりに酒場での乱闘場面も無理やり登場するし、弱みに付け込み、ガンマンの誇りを傷つけていたぶるケチな保安官もどきも出てくる。作り手が芯から西部劇好きなのだろう。ショーのメンバーに先住民夫婦がいるのは必然という外ない。ジェロニモの玄孫だという触れ込みのビッグ・イーグル(ダン・ヴァディス)の妻ウォータ(シエラ・ペシャー)がなかなか素敵だった。彼女は元からの先住民ではないとのことだったが、まさしくインディアン的な毅然さと誠実さでもって、要所要所でビリーをたしなめ、リリーに助言を与えていた。

 リリーの義母アイリーンや悪徳弁護士の悪だくみは、お約束どおり水泡に帰し、皆人が然るべき居場所を取り戻すという古典的なアメリカ映画らしい終わり方が、なかなかいい。西部劇好きには、なんとも嬉しい映画だったように思う。
by ヤマ

'22. 9.19. DVD観賞



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