『ウィンチェスター銃'73 』(Winchester'73)['50]
『ジェシー・ジェームズの暗殺』
The Assassination Of Jesse James By The Coward Robert Ford)['07]
監督 アンソニー・マン
監督 アンドリュー・ドミニク

 七十二年前に更に七十四年遡る時代を描いた西部劇と、十五年前にそこから百二十六年遡る時代を描いた西部劇を続けて観た。日本で言えば、どちらも明治初期に当たる。先に観た『ウィンチェスター銃'73 』は、先ごろシマロン['60]を観たばかりのアンソニー・マン監督による同作の十年前の映画だ。うっかり「'50年作品なのに、なぜ '73?」などと思ったが、百年違いだった。

 ちょうどアメリカ建国百年を祝う1876年7月4日から始まった物語は、千に一つの名品ゆえの争奪により数多の男を経巡るウィンチェスター銃と重なる形で、成り行きのまま数多の男を経巡るローラ(シェリー・ウィンタース)が印象深い作品だ。レバーアクション式ライフル銃のみならず、ダッジシティの保安官ワイアット・アープに始まり、ガンファイト、駅馬車、酒場女、賭博、アウトロー、裸馬に乗るインディアンと騎兵隊の戦闘、南北戦争などなど、西部劇の代表的なアイコンをこれでもかと無理やり詰め込んだような話で呆気にとられたが、物語性よりも意匠重視だったのだろう。何とも解しにくい妙ちきりんなお話だった。

 字幕ではマカダムとなっていたけれど、昔馴染みで言えば、マクアダムとなりそうなリン(ジェームズ・スチュアート)と、ダッチ・ヘンリー・ブラウンことマチュー(スティーヴン・マクナリー)の兄弟の濃過ぎる因縁のわりには葛藤に乏しい関係が妙に釈然としない気分が残った。“ハイ・スペード”フランキー・ウィルソンを演じていたミラード・ミッチェルがなかなか渋く、ローラを演じたシェリー・ウィンタースによるいい男だからよがなかなか好もしかったように思う。

 翌々日に観た『ジェシー・ジェームズの暗殺』は、十九世紀の伝説的アウトローの暗殺劇を二十一世紀に入ってから撮り上げた作品だ。地獄への道ではタイロン・パワー、ミネソタ大強盗団ではロバート・デュヴァルが演じ、四十二年前に観たっきりの『ロング・ライダーズ』ではジェームズ・キーチの演じていたジェシー・ジェームズをブラッド・ピットが演じているのだから、てっきり彼の話だろうと思って観ていたら、原題が示している通り、腰抜けボブ・フォード(ケイシー・アフレック)に焦点を当てた作品だった。1881年9月7日の最後の列車強盗から始まった物語は、ジェシーが大金の掛かった賞金首になったことで暗転するギャング団の破綻を描いていた。

 重く伸し掛かった雲が流れるオープニングから始まる重厚な画面作りに対して、その雲の流れが少し姿を変えて繰り返し現れるたびに、重さばかりで厚みがないじゃないかと少々不満を抱きながら長尺に付き合っていたら、単にろくでなし達のろくでもない最期の描かれる作品ではなかった終盤によって、全編に対する印象が随分と変わってきて些か驚いた。

 毀誉褒貶あるジェシーの陽気さや義侠心を敢えて排し、専ら威圧と猜疑心を描いて、兄フランク(サム・シェパード)が袂を分かつに至った際に呟いた“弟の異常性”が静かに伸し掛かってくる不気味さで描かれていたように思う。それこそが配下のフォード兄弟たちが見舞われていたもので、賞金を狙っての裏切りというよりは、殺さなければ殺されるとの恐怖心が最大の暗殺動機として描かれていたような気がする。馬鹿笑いをしても陽気ではなく目が笑っていないジェシーの凄みを前にして、ボブはかつて抱いた憧れよりも強い疑心暗鬼に囚われ、追い込まれていた。だから、計画的にというよりはむしろ発作的に射殺したようにも映ってくるところが、いかにも腰抜けボブで、全く言い逃れの余地なき殺害現場においてメアリーから問われて咄嗟に口走るのが僕じゃないだったりするところに、ボブの人となりがよく表れていたような気がする。

 そんな小物のボブに足元を掬われてしまうジェシーの最期がまさに自業自得のように描出されていたところが重要で、恐怖心で人を支配し、制圧しようとすることの末路はこれしかないのだろうと思わずにいられない。時節柄、スターリンの辿った道を歩んでいるようにしか思えないプーチンのことを想起した。

 それにしても、ちょうど十年後の1892年に、今度はボブ・フォードがジェシーと同じようにエドワード・オケリーによって暗殺されていたのが奇遇とも思える縁だった。映画の始まりで、1881年にジェシーが三十四歳とのナレーションがあり、ボブが二十歳だったから、ジェシーよりも短命に終わった人生だったというわけだ。




『ジェシー・ジェームズの暗殺』
推薦テクスト:「ケイケイの映画日記」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20080126
推薦テクスト:「THE RIVER」より
https://theriver.jp/manchester-by-the-sea-review/
by ヤマ

'22. 4. 5. BSプレミアム録画
'22. 4. 7. BSプレミアム録画



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