『そして、バトンは渡された』
監督 前田哲

 僕の席のすぐ後ろに並んで掛けていた四人連れの若い娘さんたちが、場内が明るくなるのを待っていたかのように、「めっちゃ結婚しとうなったわぁ」と口にしているのを聞き、エンタメ・フィクションかくあるべし!と改めて思った。

 何と言っても、キャスティングの勝利だろうと思う。優子を演じた永野芽郁も素敵だったが、みぃたん(稲垣来泉)の継母梨花のキャラクターは、その出鱈目と生真面目、天真爛漫と計算高さとをチグハグ感のない自然さで体現していて、石原さとみ以外には替えがたい際立った人物造形のように感じられ、大いに感心した。

 早瀬くん(岡田健史)がしみじみ洩らす、実の親子ではない距離感への羨望というものが端的に示していたように感じる“人間関係における尊重と要求”について、とても示唆に富んだ物語だったように思う。梨花が森宮さん(田中圭)の元を去った奔放妻であろうことは早々に察したものの、親子関係に少々無理の感じられる父娘は継子関係だからまだしも、永野芽郁の母親役に石原さとみは苦しすぎるように感じつつ、余人に替えがたい配役なのかなと思っていたら、意表を突かれる展開に納得した。

 夢ある夫(父親)・カネある夫(父親)・情愛篤い夫(父親)を渡り歩いた梨花の嫌味のない造形にえらく感心しつつ、その現実離れの奥に宿っていた真心に心動かされ、三人どころか四人の父親の物語オー!ファーザー['13]を想起したりした。はなからリアリズムなんぞとは隔絶した地点から創り上げているドラマの痛快さがあったように思う。

 森宮さんが優子をレストランに招いた際に招待していた梨花のドタキャンの後に、梨花が泉ヶ原さん(市村正親)と会っている場面を繋いでいた編集には、明らかにミスリードの意図が働いていたのだろう。時間の順番が逆だったことが明らかになった物語には、かなりの無理筋があるように感じられるのに、石原さとみ演じる梨花なら、それも了解できることのように思える。この映画作品における編集トリックは、未読の原作小説では、どのように提示されているのだろう。いずれまた、読んでみたいものだと思った。
by ヤマ

'21.11.28. TOHOシネマズ1



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