『孤狼の血 LEVEL2』
監督 白石和彌

 なかなかの迫力と緊迫感に瞠目した。凄味では、前作を凌いでいるような気がする。もう昭和の香りなどしてこない凄惨さがあったように思う。そのせいか、もうこの手の映画は、いいかなという気になった。

 チラシに記されたその先に、「最悪」がいる。の最悪たる上林を演じた鈴木亮平がなかなか強烈だった。上林を「最悪」にした「その先」の「その」が何かを思うと、いろいろ触発されるもののある作品だったような気がする。

 一義的には、広島県警本部の嵯峨管理官(滝藤賢一)に召集された日岡刑事(松坂桃李)の当たったピアノ教師殺人事件の捜査の先に上林組長がいるということになるのだろうが、「その」を捜査と解した先の「最悪」というのは、上林組長以上に嵯峨管理官が指揮して県警本部が組織ぐるみで画策した日岡潰しのほうにある気がしてくるし、「最悪」を上林組長と解した場合の元というか、いかなるものの先に上林のような怪物的「最悪」が誕生するのかとなれば、父親からのDVだとか貧困・差別だとか、いろいろあるにしても「最」のレベルにまで引き上げたのは、刑務所収監中の三年間に彼が受け続けた刑務官からの虐待であるように思える物語になっていた気がする。

 平成三年を舞台にしていたから、令和三年の今から三十年前ということになるわけだが、来客に茶を出しに来た秘書のタイトなミニスカートの股間に客の面前で手を差し入れて「会社じゃパンツを履くな言うとろうが」と怒鳴りつける経済ヤクザのパールエンタープライズ社長の吉田(音尾琢真)をはじめとして、広島仁正会にしても尾谷組にしても、警察にしても新聞社にしても、全く品性下劣なろくでなしどもばかりが凄みと怯みの交換を繰り返しているといった態で、いささか疲れた。怯む暇もなく頭を刺殺された仁正会渡船組若頭溝口(宇梶剛士)以外に、一度も怯みを覗かせることなく、最悪を突っ走っていたのは、出所後たちまち角谷(寺島進)を惨殺して組長にのし上った上林だけであったように思う。彼もまた、亡き大上刑事【前作孤狼の血】とは違う意味での“孤狼”ということなのだろう。残飯の施しを受ける犬のままでいるくらいなら死んだほうがましだと死に急ぎながら、妙な死神に憑りつかれてなかなか死ねないのだと自負する男だった。

 取り返しのつかない事態を引き起こすに至った終盤で、瀬島警部補(中村梅雀)に弱気を突かれていた日岡が近田幸太(村上虹郎)の姉真緒(西野七瀬)に、自分はもう狼ではなく犬だと零していたのは、彼が己が自負と誇りを失ったということだったような気がする。そもそも近田を仁正会に送り込んで内偵させる手法を取った時点で孤狼とは言えなくなっているのだろうが、気づかないまま、けっきょく自分も嵌められ、狼ではないことを思い知らされる。そのような日岡が県北部の山中で狼の姿を垣間観たことの意味は、LEVEL3であかされるということなのかもしれない。

 それにしても、目玉をくり抜く嗜虐趣味というのは、どこから取って来たものだろう。とても“見られたものではない世の中”になってきている感はあるにしても、ホラー映画ではないのだから、いささか遣り過ぎのような気がしてならなかった。
by ヤマ

'21. 8.20. TOHOシネマズ8



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