『ジョゼと虎と魚たち』(Josee, the Tiger and the Fish.)
監督 タムラコータロー

 旧知の映友が観て来たと記してあったので、気になっていたアニメ―ション版を観に行った。十七年前に観た実写版がなかなかのインパクトで、当時の拙サイトに設けてあった掲示板での談義なども大いに弾んだ覚えのある作品だ。

 本作には、そのような強烈さはなく、大阪人らしい濃いキャラクターも画面の色調さながらにマイルドに和らげられ、大阪の地下鉄が出てきたりはするものの、ダイバーショップにも図書館にも、むしろ東京色のほうが漂っていたように思う。「見たら、しばくぞ」などの台詞は同じでも、実写版とはまるで違えていた物語に見合った、とても綺麗な「ジョゼと虎と魚たち」になっていたような気がする。

 両作とも原作・脚本は女性なのだけれども、当世風にアレンジされて全く趣の異なる本作には、より若年女性客層を狙った作品づくりが施されているように感じた。時代とマーケットの求めるものによる違いなのだろう。でも、生々しさを削いだアニメーション作品としては、これでいいような気がする。図書館でジョゼ【声:清原果耶】が自作の絵本の読み聞かせでもって語る物語に涙する恒夫【声:中川大志】の姿は、妻夫木聡の見せた涙とはまるで異質のものながら、なかなか心打たれるものだった。

 僕が感じた最も大きな違いは、実写版で大いに感心した「障碍を一つの属性として捉えたうえでの個性的な人間像」の造形に比して、アニメ版では障碍を負うことについての掘り下げに焦点を当てていた点だった。そして、届かないかもしれないところに手を伸ばす勇気を鼓舞していたことが印象深かった。そういう意味では、実写版とは対照的なものを描いていた気がする。恒夫の人物造形が自ずと対照的なものになってくるのは、それゆえのように感じた。

 虎をきちんと利かせる肝心を漏らすことなく、実写版で新井浩文が演じた幸治と似たような役回りのキャラクターを、くみ子の側ではなく、恒夫の傍らに隼人【声:興津和幸】として配することで抜かりもなく、誰一人友達のいなかったジョゼが、スマホを手にし幾人もの人を得る物語にして、今の時代の求めるお話にしてあったように思う。

 チラシに記されていた“今、出会うべき感動”というのは、そういうことなのだろう。おそらくはメキシコから一時帰国したと思しき恒夫の姿が最後に仄めかされるような作品を、もう一つの「ジョゼと虎と魚たち」として受容しつつ観ることがあるとは思いもかけなかった。そもそも原作での恒夫とは、どのような人物像だったのだろうと気になってきた。




推薦テクスト:「シューテツの映画日記」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1978050307&owner_id=425206
by ヤマ

'21. 1.10. TOHOシネマズ3



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