『駅馬車』(Stagecoach)['39]
『黄色いリボン』(She Wore a Yellow Ribbon)['49]
監督 ジョン・フォード

 先に観た『駅馬車』は、十二年前の上映会で観て、スクリーンでの『駅馬車』は観たことがなかったので、大いに満足。リンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)の本名は、ヘンリーだったんだねー。ダラス(クレア・トレヴァー)が赤ん坊を抱いている顔がなかなか良かった。とのメモを残して以来の再見だ。

 やはり何と言っても、ジェロニモ率いるアパッチの襲撃場面のアクションの素晴らしさが何度観ても目を惹く。八十年も前に、よくぞこれだけの迫力撮影を成し得たものだと思うと同時に、八十年も前だったからこそ、こんな如何にも無茶な撮影ができたのに違いないと思わずにいられなかった。

 飲んだくれだったり、娼婦だったり、お尋ね者だったり、ばくち打ちだったりする者のほうが、いざというときに美しい身の処し方を取る姿が描かれたりしている点にヒューマニズムが窺えて、普遍的な支持を集めているのだろうと改めて思ったりした。

 最後のカーリー保安官(ジョージ・バンクロフト)とブーン医師(トーマス・ミッチェル)による粋な送り出しの後には、三年後に撮られたカサブランカ['42]の最後でのリックとルノー署長の姿を思わせるものがあって、いかにもハリウッド映画らしい気持ちの良さがあるような気がする。

 これで100分を切っているスマートさ、本当に畏れ入る。迫力のアクション場面など結構たっぷり見せてもらった気がするし、人間ドラマとしてもなかなかの厚みがあるのに、99分というのは、本当に凄いことだと改めて思った。妙味がぎゅっと濃縮されて醍醐味にまで味わいが増すのだろう。昨今のなんでもかんでも二時間越えの編集の冗長さとの違いが歴然としていたように思う。

 ネットの映友が「ヘイズ・コードの元で省略の話法とアメリカ映画のテンポが生み出され、象徴・暗示・比喩・換喩が発展したわけですから。」との声を寄せてくれたように、画像にできる場面が限られるから尺も短くなるわけで、そのぶん演出等による見せ方の工夫を凝らす技術開発が促されていたのだろう。


 翌日観た『黄色いリボン』も、同じくWジョンのフォード&ウェインによる名作として名高い、十年後の作品だ。ミッチ・ミラー楽団の歌う主題歌では、♪ファーラウェー♪となっている部分を、小学低学年の時分に♪イェロリー♪と口ずさんでいた覚えがある。遠い日の記憶では、黄色いリボンというタイトルなのに、色のついていないモノクロ作品だったものだから、鮮やかな色彩に吃驚した。

 滅法ケンカの強いクインキャノン軍曹(ヴィクター・マクラグレン)が上官の部屋に隠した酒瓶で盗み飲みをしていた場面はユーモラスで、よく覚えていたのだが、カスター将軍戦死後の西部を描いた、いかにもジョン・ウェインに似合った謝るな、弱さの表れだ!が口癖の退役間近の騎兵隊士官ネイサン・ブリトル大尉が中佐として再任用される西部劇を観ながら、「こんな話だったっけ」と些か意表を突かれた。

 定年退職も済ませ、再任用を経験している今の僕とは違って、小学低学年時分に、いったい何がよかったのだろうと訝しく思わないでもなかったが、スタンダードサイズとは思えないスケール感を醸し出していた壮大な風景画面や、馬にしてもバッファローにしてもインディアンにしても、とにかく大群で大挙して走る姿に疾走感があって、勇壮な気分にしてくれるところが気に入ったのかもしれない。

 ネイサンにとっての黄色いリボンは、墓標に刻まれていたように、三十三歳で亡くなったと思しき妻メアリーとしたものだろうから、画面には出てこない。それでも、本作のタイトルがそうなっているのは、彼が妻の面影を観て取っていたミス・ダンドリッジ(ジョアン・ドルー)にまつわる恋の鞘当てが、かつてネイサン自身の経験していたものだったからなのだろう。
by ヤマ

'21.10.15. BSプレミアム録画
'21.10.16. BSプレミアム録画



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