『無法松の一生<4Kデジタル修復版(81分)>』['43]
監督 稲垣浩

 手元の観賞リストにタイトルがないのは、むかしTV視聴した分はきちんと記録していないからだと思われるが、'58年の稲垣監督自身によるリメイク版は、確かNHK教育TVで視聴した覚えがある。そのとき、戦時中のオリジナル版も観てみたいものだと思っていた宿題をようやく片付けたということになる。

 泣き虫の敏雄(澤村アキオ【長門裕之】)に、自分も子供の時に一度だけ大泣きしたことがあると語った松五郎(坂東妻三郎)の記憶のなかでの夜道の一人歩きの回想場面のみならず、祇園太鼓の暴れ打ち場面のほか、随所にモダンな映像構成が施されていて、大いに感心した。

 将棋盤と手習いを背景にしていたオープニングクレジットが仄めかしていたように、非常にロジカルで知的な人情物語だったように思う。好みとしては、遠い日の記憶にあるリメイク版のほうがよりエモーショナルで惹かれるところがあるような気がしたけれども、是非とも観比べてみたい思いが湧いた。園井恵子による非常に抑制的な吉岡夫人よし子が思いのほかよく、何気もない「吉岡さん、とでも呼んでくださいな」の邪気のなさが効いていた気がする。すっかり飲まなくなっていたはずの酒に手を伸ばす松五郎が哀れだった。

 また、今や運動会の種目から駆逐されているらしい“棒倒し”が目を惹いた。遠い日に僕も経験しているこの種目は、いつから運動会の定番競技になっていたのだろう。本作の撮られた昭和18年にあったのは間違いなかろうが、吉岡夫人が未亡人になっていた明治40年当時には既に定着していたのだろうか。
by ヤマ

'21.10.17. BSプレミアム録画



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