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『アパッチの怒り』(Taza, Son Of Cochise)['54] 『カラミティ・ジェーン』(Calamity Jane)['53] | |||||
監督 ダグラス・サーク 監督 デヴィッド・バトラー | |||||
今月、当地で8作品からなる「メロドラマの巨匠 ダグラス・サーク監督特集」という企画上映が予定されている監督による、かなり異色と思われる西部劇だった。でもって、先ごろ観た'60年代の『ネバダ・スミス』の映画日誌に「『太陽の中の対決』['65]のポール・ニューマン、『さらばバルデス』['73]のブロンソン、本作のマックィーンと名だたる役者が演じたものを観たことになる」と記したものに、本作『アパッチの怒り』でアパッチのチリカワ族の大族長コチーズの息子ターザを演じたロック・ハドソンが加わった。 '90年代の『ジェロニモ』を観た際に、「秘話とされるものには、必ずなんらかの元になっているものがあるのではないかと思われるが、ゲイトウッド中尉にまつわるものは、どんなものが残っているのだろう」と記したことに関しては、史的資料ではないにしても、本作のバーネット大尉(グレッグ・パーマー)の存在が目に留まった。『ジェロニモ』で「ナンタンルパン」との尊称を得ていたジョージ・クルック将軍は、1872年のコチーズの死から始まる本作では専ら討伐指揮官であって、ターザから「ナンタン」と呼ばれていたのが、バーネット大尉だった。'50年代と'90年代の両作に共通して登場していたのは、クルック将軍のほかは、本作で騎兵隊の軍服を着てチリカワ族の戦士を率いていたターザの部下チャトで、『ジェロニモ』と同じ役回りではないながらも、ターザとウーナ(バーバラ・ラッシュ)の結婚を応援する存在感のある役処だった。 印象深かったのは、ジェロニモの位置づけで、本作では、和平主義の族長コチーズの遺志を継ごうとするターザと反目する武闘派として、敵役に配されていたように思う。直截的な敵役は、ターザの弟ナイチ(バート・ロバーツ)が負わされていて、ウーナをめぐる恋敵でもあり、己が目的のためには手段を択ばずに何かと和を乱す思慮の浅い厄介な存在とされていた。強権的な覇権主義者に対する誇り高き抵抗者としてのヒロイックなイメージを戦士ジェロニモが獲得するようになったのは、'60年代の政治の季節を経てからのことなのだろう。 この前年の作品に当たるミュージカル西部劇『カラミティ・ジェーン』も『アパッチの怒り』のターザと同じく、実在の人物に材を得た作品のようだが、オープニングからガンマン姿のドリス・デイの歌で始まるミュージカル仕立てであることに加え、映画のニュアンスからすると“お騒がせジェーン”と訳すのが相当と思しき彼女の異名さながらに、劇中で「その手を引っ込めな!」とジェーン(ドリス・デイ)が文句をつけていたように、彼女が100人と言うなら5人、30人は2人だなと後ろで指を立てる男がいたりするくらい、ホラめいた逸話に事欠かない女性だったようだから、本作も史実に沿った物語というわけではなさそうだ。 だが、むしろそれゆえにこそ、襲撃してきたスー族のインディアンを殺した数が堂々たる自慢話になるような時代の映画のなかで提起されていたジェンダー観が、興味深かった。男勝りの粗忽者ながら意気には感じやすいジェーンが、勢いで当てもなく大見得を切った大都会シカゴの人気女優の招聘公演をダコタの田舎町デッドウッドにて実現させようとする過程で知り合ったケイティ・ブラウン(アリン・アン・マクレリー)との出会いによって、女らしさに目覚める部分を描いていた場面が目を惹いた。また“女らしさ”と訳されていた歌のときは「ウーマンズ・タッチ」となっていて、ジェーンに町を追われたケイティを彼女が呼び戻しに馬車を追う終盤の場面で、御者が「まったく女ってやつは!」と叫んだときは「フェミニン」になっていたのが耳に残った。 ただ、男装・女装、歌に踊りにアクションにと芸達者なところを見せるドリス・デイには感心しつつも、その魅力が劇中でいかんなく発揮されているようには感じられなかったのが残念だった。パーティと訳されていた「annual ball」は舞踏会のようだったが、ガンベルトを外してドレスを着たジェーンがモテモテになっていたことへのケイティの狼狽がギルマーティン中尉への予定外の積極的アプローチになっていたのだろうが、いささか唐突感が免れなかったのは、装いを新たにしたジェーンがケイティを圧倒するほどの華を醸し出し得ていなかったからのような気がした。 とはいえ、ワイルド・ビル・ヒコック(ハワ-ド・キール)と一夜を共にした(であろう)翌朝に歌っていた♪シークレット・ラヴ♪は、ジェーンのケイティに対する前言撤回と反省にも納得感を与える流石の歌唱だったように思う。荒くれ者の賭博師のように見せて、勝負に負けたと見るや潔く約束を守って先住民女性の扮装を厭わず果たしていたビルを演じていたハワード・キールが美味しい役処を持っていっていた気がする。 | |||||
by ヤマ '21. 6. 4. BSプレミアム録画 '21. 6. 6. BSプレミアム録画 | |||||
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