『聖衣』(The Robe)['53]
監督 ヘンリー・コスター

 遠い日に観た『十戒』['56]やベン・ハー['59]を思わせるキリスト教史劇だったが、イエスを磔刑にした当人を主人公にした物語だとは思い掛けなかった。また、史劇的なスケール感よりも、ティベリウス帝やカリギュラ帝とも近しい関係にある将校ながら神の子イエスと直に関わったことから、ローマ帝国によって弾圧される教団の側に与するようになっていったマーセラス・ガリオ(リチャード・バートン)がさまざまな人物と交わした人間関係に焦点が当てられている作品になっていたことが目を惹いた。

 キリスト教に感化されるローマ帝国将校を描きながら、その教義や示した奇跡に心動かされたのではなく、まさに「目と目が合ったその日から神に帰依することもある」というものだったことが衝撃的で、ほとんど恋愛と同じようなものとして描かれていたような気がする。たまたまイエスの目を見つめ、そのまとった聖衣を羽織ったことによって、富も栄達も投げ打つマーセラスの呆気なさは、一目惚れに置き換えるほかないものだったように思う。

 そして、自分でも自分の囚われている感情や動揺が不可解で病を疑ってみたり、世知辛い損得勘定からすれば明らかに愚の側に付く選択をしつつも、当人に悔いはないどころか半ば夢見心地の陶酔感を得ている有様からは、確かに信仰心というのは、恋愛と同じようなものなのだと得心させられる気がした。

 カリギュラ帝の執心を得ながらも、反逆者として咎められるに至ったマーセラスへの恋情を決然と貫くダイアナ(ジーン・シモンズ)の存在が効いていて、彼女が真っ直ぐマーセラスに向ける熱情と、マーセラスに沸き起こった信仰心との同調が、まさにラストシーンになっていたことに大いに納得した。ラストのリチャード・バートンとジーン・シモンズの表情に窺える恍惚感は、その両者の結合がもたらしているものに他ならない気がした。大いなる西部['58]での学校教師ジュリーもそうだったが、背筋の通った凛とした佇まいがよく似合っているジーン・シモンズだから、とりわけ効果的だったように思う。

 それにしても、本作の邦題である「聖衣」というのは何とも絶妙で、本作をこのように観た僕にはほとんど「性為」として映ってきた。目と目が合ったその日からマーセラスの心を捕えていたイエスに彼が決定的に嵌まり込むのは、まさに聖衣を羽織って触れる肌合いによってだったからだ。その聖衣を作品タイトルにしている映画だからこそ、作り手は、信仰と恋愛を確信的に重ねているのだという気がした。

by ヤマ

'21. 2. 4. BSプレミアム録画



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