『パーフェクト ワールド』(A Perfect World)['93]
監督 クリント・イーストウッド

 観逃しているように思って録画していたのだが、まるで二十世紀少年['08~'09]を思い起こすようなお面の傍らに横たわっている草むらでのケビン・コスナーを捉えたオープニング・カットに既視感を覚え、早々に再見作品だと気づいたけれども、ついつい観入ってしまった。

 後の作品群からすると、少々冗長にも思うけれども、ニュアンスの豊かさは流石だ。ケネディ大統領暗殺の少し前のアメリカが舞台なのだが、今でいうプロファイリング捜査官として派遣されたサリー(ローラ・ダーン)に、苦々しく「記録が真実とは限らない」と告げていたテキサス・レンジャーのレッド・ガーネット署長(クリント・イーストウッド)が印象深かった。遠い日に彼は、判事にTボーン・ステーキを振舞ってまで、まだ少年だったブッチことロバート・ヘインズ(ケビン・コスナー)を、良かれと思って犯罪者の父親から引き離すために、敢えて重い量刑に処して刑務所送りにしたようだったが、その最大の理由としていた、彼の父親のことを一体どこまで知っていたのだろう。

 ハロウィンもクリスマスも認めない“エホバの証人”を信仰する母親の元で育った8歳の少年フィリップ(T・J・ローサー)拉致にまつわるブッチの記録は、おそらくレッドがブッチの父親についてサリーに語っていた極悪人そのものになってしまい、レッドの指示を無視して彼を射殺したFBI捜査官の下衆ぶりや、ブッチ自身の語っていた「自分は極悪人ではないが、いい人なんかじゃない、変わり者さ」といったニュアンスなどがプロファイルされることはないに違いない。

 ブッチが犯罪者人生を歩むなかでも手放さなかったアラスカからの葉書とその文面からしても、彼の父親もまたブッチのような人物だったのではないか、という気がしてならなかった。されば、ブッチの人生を大きく過たせたのは、むしろレッド・ガーネットなのかもしれないのだ。だが、それもまた是非もないことで、サリーがブッチ射殺の顛末を労わるように「貴方は出来るだけのことをやったわ」ということなのだろう。

 お面の下の人の顔の真実など、プロファイリングで推し量れるものではない気がする。さればこそ、誰からもその真実を理解されることはなかったであろうロバート・ヘインズの真実と深いところで交わる少年と過ごした時間は、彼にとって唯一無二のものだったに違いない。






【追記】'23. 4.30. 二年余ぶりの再々観賞。映友から呼びかけられた課題としてイーストウッド監督作を順番に観てきている一環で改めて観たところ、BSプレミアム録画ではなく、DVD観賞だったから、サリーが貴方は出来るだけのことをやったわと言った後に、レッドの返した言葉を英語字幕によって確認することが出来た。
 I don't know nothing…not one damn thingだった。前回、前段は聴き取れながらも、not nothing ?と変に思ったことを思い出した。後段は聴き取れていなかった部分だ。damn thing だったのか。とにかく、なんにも!ということが矢鱈と強調されていたわけだ。口調以上に「何もわからない」ことにレッドは、苛まれていたようだ。
by ヤマ

'20.12. 4. BSプレミアム録画



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