『私のちいさなお葬式』(Karp otmorozhennyy)['17]
監督 ウラジーミル・コット

 73歳・元教師のエレーナ(マリーナ・ニーヨロヴァ)の暮らす田舎の人々のゆるく風変わりな個性が実にユーモラスだった。十日ほど前に観たアメリカ映画『40歳の童貞男』に♪幸せなら手を叩こう♪が出てきて意表を突かれたが、ロシア映画の本作では、主題歌とも言っていい曲として宮川泰が作曲した♪恋のバカンス♪が使われていて驚いた。

 かなり素っ頓狂な終活ではあったけれども、それこそ、“ため息が出るような”いい男だったらしい伴侶を得て、諦めかけてた子供に恵まれ、願い通り田舎でくすぼらせることなく都会に送り出し、経済的にも成功させたようだから、五年に一度くらいしか帰省してこなかったとしても、彼女にとっては、悔いのない人生だったのだろう。ましてや、教え子からふとした行き掛りで貰った“鯉の奇跡(ロシア映画だからよもや恋の奇跡と掛けているのではなかろうが)”によって、一人息子オレク(エフゲニー・ミロノフ)との思い掛けない最期の時間を過ごすことができたのだから、以って瞑すべしという気がした。

 至る所に元教え子がいて、元教師としての敬意を払ってもらっている状況があって、都会的なマスに汚染されていない“ゆるく風変わりな個性”の人々に囲まれていれば、エレーナの試みたような素っ頓狂な終活だってあり得るのではないかと思えるような筆致に、なかなか味わいがあったように思う。

 それにしても、一年前に観たグルジア映画聖なる泉の少女['17]でも、“鯉の奇跡”のようなエピソードが登場していたように思うが、あちらのほうでは、神の使いか何かの伝承があるのだろうか。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
https://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/20080101/
by ヤマ

'20. 7.22. あたご劇場



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