『ステップ』
監督・脚本 飯塚 健

 美紀(2歳:中野翠咲、6〜8歳:白鳥玉季、9〜12歳:田中里念)に限らず、誰も彼もがみんな負けず嫌いで、美しくかっこよかった。勝とうなどとついぞ思っていない負けず嫌いというのは、健気でいいなぁと観惚れていた。健一(山田孝之)の亡妻もきっとそうだったのだろうなと思う。そのなかでもやはり、健一と義父の鬼村松と呼ばれたらしい明(國村準)の“痩せ我慢一歩手前のハートフルな矜持に満ちたかっこよさ”が印象深かった。勝ち組に回りたいといった欲ではなく、負けるものかと人生に立ち向かう気概と誇り高さが清々しかった。健一に目を掛けてくれる部長(岩松了)との対話のなかでも仄めかされ、奈々恵(広末涼子)の台詞にも出すことで強調されていたように思われる“負けず嫌い”が、僕にとっての本作のキーワードだったような気がする。

 義理の親子関係にもかかわらず似た者同士の側面があって、明が「新潟のご両親(と言ったような気がする)には申し訳ないけれども、もう自分の息子だと思っている」と告げていたことにも言葉だけのものではないものが感じられて、納得感があった。明の闘病姿勢がそのまま健一の子育て姿勢に通じているように感じられ、健一の人柄が滲み出るデリカシーに富んだ山田孝之の演技に大いに魅せられた。そして、保育士のケロ先生(伊藤沙莉)が、とても素敵だった。外形的な均一均等による公平ではなく、個々の内実に沿った公平を果たせる“応分感”というものを備えている職業人の賢さと温かさが心に残った。保育士において最も大切な資質が感受力であることを改めて感じたように思う。

 亡妻が倒れたときに部屋の白い壁に残した赤マジックの線を美紀の成長の樹にしていたエピソードは、原作にもあったものだろうか。もしあったのなら、映画化を意識してのものに違いないと思うくらい、シングルファーザー10年間の歩みを章立てるうえで画になっていた。

 2009年とクレジットされたオープニングで、2008年10月のカレンダーを見せて運んでいた映画の構成と章立てに感心したので、エンドロールで脚本を気に掛けていたのだが、「監督・脚本・編集 飯塚健」とクレジットされて少々驚いた。いくつかの作品を観た覚えのある監督だったが、これといって強く印象に残っている映画が浮かばなかったのだ。そこで帰宅後、確かめてみたら、『風俗行ったら人生変わったwww』『笑う招き猫』、『ブルーハーツが聴こえる』のなかの「ハンマー(48億のブルース)」を観ていた。

 タイトルにしている「ステップ」は、作中では実の親子ではないステップマザーやステップファーザーのステップとして出てくるが、映画のラストで健一が、娘の小学卒業と自身の再婚を果たし、子育ての一つの季節が終わったとの感慨を漏らす台詞の示す人生の一階段という意味でのステップや、人生というステージを「負けず嫌い」で処していく踊り方としてのステップなど、けっこう多義的に感じられ、なかなか含蓄のある題名だと思った。
by ヤマ

'20. 7.24. TOHOシネマズ3


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