『プラダを着た悪魔』(The Devil Wears Prada)['06]
『幸せになるための27のドレス』(27 Dresses)['08]
監督 デヴィッド・フランケル
監督 アン・フレッチャー

 娘が結婚したときに置いていったDVDで『25年目のキス』['99]を観た際に目に留まって、TV放映での吹替え版しか観ていなかったことから観てみた『プラダを着た悪魔』は、ひところ流行った自分探し系の物語になるわけだが、自分を探し、自分を生きるというのはどういうことかという問題を非常に明快且つ端的に描くとともに、実に爽やかで楽観的な人間観がなんだか心地好い、なかなか魅力的な作品だ。いろいろ掛け替えのない経験を積み重ねて所期の望み通り新聞記者への途に就き、恋人との相性や絆を確かめ直し得たのだから、文句なしのハッピーエンドだ。

 前日に観た『25年目のキス』では「装うことで人は自分を変えられる」という形で出てきた台詞が、本作では、「(靴や服、ベルト、バッグ)装うことで人は変わってしまう」となって、ネイト(エイドリアン・グレニア)がアンドレア(アン・ハサウェイ)に語っていた。

 字幕版で観直すと、悪魔的に用命を下す編集長ミランダ(メリル・ストリープ)の口癖であった「以上!」に、冷たさとともにそれ以上に、ある種の不器用さのようなニュアンスがあって、流石だと思った。ミランダの零す「また継父に出て行かれることになる」との娘を想ってのぼやきが、最後にアンディのために送られたミラー社へのファックスを唐突なものに思わせない、程の良い仕込みになっているように感じた。

 それにしても、アン・ハサウェイは大したものだ。彼女が出演していると、スクリーンが活き活きしてくるように感じる。シリアスもコメディもできるし、歌も歌えるし、脱ぐのも惜しまないし、身のこなしも達者だし、まさしく大女優メリル・ストリープに匹敵する万能ぶりだと改めて思った。


 翌日観た『幸せになるための27のドレス』も娘が置いていったDVDから観たもので、こちらは僕の未見作だ。監督も脚本も女性で、いかにも、女性たちの女性たちによる若い女性たちのための映画という感じで、普段なら観ることもなさそうな作品なのだが、『プラダを着た悪魔』と同じアライン・ブロッシュ・マッケンナによる脚本には意外と毒が入っていて、思いのほか面白かった。

 普通にはそう起こらないようなもつれた恋愛感情が錯綜して波乱と騒動になるのだが、関係者が一様になかなかタフで、感情的に妙な拗れを来したりせずに、きちんと一年後の結婚式で一堂に会しているところが気に入った。「つまらぬデリカシーなんぞ捨てちまえ!」という映画だったような気がする。

 引き立て役としての結婚付添人を27回重ねてきた“過去と役割に引き摺られる女性”ジェーンを演じたキャサリン・ハイグルの声がシャーリーズ・セロンに似ていて驚いた。十年余り前に観た男と女の不都合な真実['09]のときには、そう思わなかったのだろうか、記憶になかった。酔ってエルトン・ジョンの♪ベニー&ジェッツ♪をケビン(ジェームズ・マースデン)と歌い踊っているときの弾け方は『25年目のキス』を思わせたが、キャサリンのほうがドリューよりも断然いいように思った。
by ヤマ

'20. 4.26. DVD観賞
'20. 4.27. DVD観賞



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