『サーカス』(The Circus)['28]
『キッド』(The Kid)['21]
監督・脚本 チャールズ・チャップリン

 チャップリン自身の歌声で始まり、その役名にア・トランプ(浮浪者)とクレジットされた『サーカス』を僕は、通して観たことはないと思っていたのだが、<スリと警官>による追っ掛けにおける名高い<鏡の部屋と自動人形>の場面のみならず、サーカスに逃げ込んで観衆の爆笑を得る場面、ライオンの檻や馬の薬にも覚えがあって、当然ながらチャップリンによる名高い<綱わたり>の場面にも見覚えがあった。

 ほぼ全編にわたっていたので、ひょっとしたら通して観たことがあるのかもしれないという気がしてきたくらいだ。見覚えのある場面は、パフォーマンスとしてもアイデアとしても卓抜した場面ばかりだから、何かの折に部分的に観る機会がいかにもありそうなので、一概に全編通して観ているとも言えないのだが、もし観ているとしたら、おそらくは僕が十代の時分にNHK教育テレビで続けて放映していたチャップリン劇場のようなものだった気がする。

 その一方で、場面的にこれだけたくさんのものに覚えがあっても、全編通して観たとも言えない気がしているのは、マーナ(マーナ・ケネディ)に心寄せるストーリーラインと彼女にまつわる場面にほとんど覚えがなかったからだ。十代の時分は観賞記録を残していないし、大学を卒業して郷里に戻ってから残し始めた記録にもTV視聴によるものは長らく残していなかったので、もはや確かめる術がないのだが、十代時分に全編観ていてストーリーラインが記憶に残らず、場面の随所がやけに明瞭に残っていることが、いかにもありそうなことのように感じられる作品だった気もする。それだけ運動神経とリズム感に恵まれたチャップリンのパフォーマンスが素晴らしく、また、その動きの面白さを見せるためのアイデアの豊かさが圧倒的なのだと思う。


 併せて観た『キッド』は、このところDVD観賞を続けていたからか、ブルーレイディスクの画質の良さに改めて驚いた。こんな昔の作品でも違いが出るのかと、観終えて後にリーフレットを捲ってみたら、「チャップリン家所蔵のフィルム、およびチネテカ・ディ・ボローニャ所蔵の素材から、新たに修復されたものを使用している。」とあった。その後、4K修復されたものがあるようだが、“世界で2番目に美しいマスターHD”と自負していた。

 一時間足らずのこの名高い長編第一作も通して観たことはなかったものだが、ジャッキー・クーガン演じるキッドが石の礫を投げたり走り逃げたりするショットや、孤児院に連れていかれそうになって叫ぶ場面など、見覚えのあるものが多かった。だが、『サーカス』のように全編に渡ることはなく、夢の国の場面など意表を突かれたくらいだから、作品としては初見で間違いないようだ。

 夢の国からはもう帰ってこないのかと思ったら、帰ってきてしまったので、それなら要らないエピソードだったような気がしなくもない。それにしても、ジャッキー・クーガンもさることながら、序盤の吊り下げられた水差しポットに吸い付いて飲んでいた揺り籠の赤ん坊の場面が見事だった。
by ヤマ

'20. 4.25. DVD観賞
'20. 4.25. BD観賞



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