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『旅情』(Summertime)['55] | |||||
監督 デヴィッド・リーン | |||||
高校時分の映画部の部長と近年もらった宿題の話をしていて、彼からの御題の最初が『ドクトル・ジバゴ』['65]だったことから、本作を録画してあったことを思い出した。前にいつ観たのか既見作リストを当たってみたら、記録が漏れていて呆然。未見ということはないはずだと再見したところ、思っていた以上に豊かな色彩設計による画面の美しさに驚いた。 マウロ少年(ガイタノ・アウディエロ)が巧みにカメラを捕まえてジェーン(キャサリン・ヘップバーン)が運河に嵌まる場面や、レナート(ロッサノ・ブラッツィ)がジェーンの落とした白いクチナシの花を拾い上げようと水際で手を伸ばしつつも届かないシーン、赤いベネチアン・グラスの場面にも覚えがあって、既視感満載だったからか、或は僕の歳嵩がいってきたからか、この些かこじれたアラフォーシングル女性の面倒さに対し、レナートの気が知れないように感じた。 それと同時に、決して褒められたことではないにしても、近頃の過剰なまでの不倫バッシングの風潮に違和感を覚えている僕からすると、本作は、今どきの若者からも、名作としての支持に対する理解が得られるのだろうかとの思いが湧いた。ムード作りも口も巧いアピール上手のレナートを今どきの女性はどう観るのだろう。ジェーンにしても元々旅のアバンチュールを期待してのものだったわけだから、五分五分と言えば、五分五分なのだが、昨今の風潮からはレナートの分が悪そうだ。 だが、邪気なくも結構こすっからいマウロが、最後にジェーンに無償で万年筆を渡していたように、人の真情というものは、損得勘定や合理性とは別のところにあるということは蔑ろにされてはいけないことだと思う。けっこう不埒な話なのだが、人の生のプライヴェートにはそういう不埒さもきっと必要なのだ。孤児マウロが生き延びるのに、ある種の如何わしさを必要としていたように。 でも、そこにどっぷり堕ちてはみすぼらしくなる一方だから、マウロのような邪心の無さが同時に必要であることを描き出していた気がする。そういう意味では、ジェーンにもレナートにも邪心がなく、さもしくもみすぼらしくもなくてよかった。だから、この夏の日の数日の美しさは、きっと彼らが「人生をしまう時間」にもその脳裏をよぎることになるのだろう、『タイタニック』のローズがそうだったように。 恋愛モードに浸ってからの犬にも食えないようなベタベタの甘さには少々食傷したが、画面の色遣いのみならず、白いクチナシも赤いゴブレットも、きちんと伏線と合わせてニ度出しする丁寧な作品作りには、改めて感心させられた。そして、まだ銀幕がスターによって彩られていた時代の作品で、名場面に事欠かないのも流石だった。あの時代の映画は、脱衣場面の代わりに脱いだ靴の落下を映し出し、盛大に花火を破裂させて朝を迎えるわけだが、こればかりは今どき通用しない技のような気もした。 | |||||
by ヤマ '20. 1. 5. NHK・BSプレミア録画 | |||||
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