『人間失格 太宰治と3人の女
監督 蜷川実花

 蜷川作品らしい毳毳しい色遣いの百花繚乱で始まり、風花で終えるのかと思いきや、作品タイトルにもなっている『人間失格』を執筆しないままになってしまうのを躊躇ったのか、最後の入水までの顛末をしっかりと描いていた。目を惹いたのは、妻の美知子(宮沢りえ)、太田静子(沢尻エリカ)、山崎富栄(二階堂ふみ)ともに、引き摺られ感がまるでなく、主体的な人物造形を施してあったことだ。女性市場に傾いた昨今の映画状況を見事に反映した、脚本【早船歌江子】・監督とも女性による映画だと思った。青の美知子、赤の静子ときてキェシロフスキのごとくトリコロールに向かうかと思いきや、富栄に特に白を施してはいなかったなかにあって、雪に倒れた津島修治(小栗旬)を富栄が抱き起したことに納得した。

 三年前にSCOOP!を観たときの映画日誌に馬場チャンというキャラクターを造形しながら、二階堂ふみの下着を取ることもできない濡れ場しか演出できないのであれば、馬場チャンに顔向けできないというくらいの気概がなければ、本作はダメなんじゃないかと情けなく思った。なにも馬場チャンに相応しく剥き出しの尻の接写やバストトップをさらせと言うのではない。少なくとも上下とも下着を着けたままのベッドシーンをソフトタッチに撮って済ませるのでは『SCOOP!』という映画は死んでしまう、くらいの個人的熱情を見せなければならない気がする。と記した後に、この顛末には二階堂ふみの事務所サイドの事情があったらしいことを仄聞したが、本作では、標題の「3人の女」のうち彼女だけが軀を張った熱演を見せていて、大いに観直した。

 それにしても、驚くほどに時代性の剥ぎ取られた太宰治物語で、却ってそれがある種の魅力を醸し出すような興味深い作品だった気がする。四十路を前に死んだ明治生まれの男を巡る女たちの物語とは思えない現代的な作品だったように思う。妻の美知子が押し寄せた報道陣に目もくれず洗濯物干しに取り掛かる場面に快哉を挙げ、決然と「貴男の赤ちゃんが欲しい」と切り出す二人の愛人の言葉にすっかり怯んでしまう修治の体たらくが何とも可笑しかった。
by ヤマ

'19.10.17. TOHOシネマズ5


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