『身体を売ったらサヨウナラ』['16]
監督 内田英治

 ある意味、平成の黒木香とも言うべき特異な存在としてインパクトのあった元日経新聞記者の鈴木涼美の同名原作【未読】を映画化した作品だが、奇しくも監督が全裸監督で唯一、脚本と監督の両方にクレジットされている内田監督で、作中に十名の現役AV男女優や監督、スカウトマンへのインタビューが挿入されているのが興味深く、また、とても効いていたように思う。

 冒頭「大学時代、お金で買える幸せを私は信じていた」とのモノローグから始まる鈴木良子(柴田千紘)の貪欲なまでの自分探しというか「自分を知りたい」との欲求の実践には、恵まれた経歴と頭脳、容姿による、どこか人生を舐めたような若々しい思い上がりがありありと映し出されていて、非常に納得感があった。それと同時に、自らのしたことは自らに返ってくるという摂理を真っ向から受け止めている、何処か清々しいまでの潔さがあって、好感を抱いた。日々報じられる政界財界その他各界のお偉方から、かつてないほどに綺麗さっぱりと失われているものを見せられたように感じたからかもしれない。

 柴田千紘の好演が印象深く、背伸び感と危うさを漂わせつつ足取り確かに歩みを止めない姿にエールを送りたい気持ちが湧いた。作品的にも、前半での「行き場がない時こそ女の値打ちは決まる」との印象深い台詞が、終幕の“躓きを超える、下着を覗かせて俯せた無様な転倒”に泣いた後の裸足で歩きはじめる姿に効いてくる深みが、彼女の人生そのものを示しているように感じさせる部分があって、大いに感心した。

 その意味で、まさにエールという言葉が台詞としても現れる、元カレのスカウトマンとのラストシークエンスも気に入った。そして、収まりのいい反省なり転進などを安易に観客に許さぬよう「お金でしか買えない愛や幸福も求め続ける」と宣言しているタフさが目を惹いた。内田英治の監督作品は、この二作しか観ていないが、僕は『全裸監督』以上に本作がいいように思う。エンドロールによれば、鈴木涼美本人が特別出演していたようだが、どこだったのだろう。
by ヤマ

'19. 9.22. Netflix配信動画



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