『共犯者たち』(Criminal Conspiracy)
監督 チェ・スンホ

 政治性の強い題材の突撃インタビューによるドキュメンタリーとなると、既にすっかり馴染みとなったマイケル・ムーアがいるものだから、その見せ方の巧さとの落差があまりに大きく、いかにも平板な編集に少々倦んでしまった。会場の映写距離に見合った機材で上映していないがためと思われる画質の粗さは、ドキュメンタリー映画だからまだしもとはいえ、やはり気になる。そのせいもあったかもしれない。

 ノ・ムヒョン大統領の時代は良かったのに、2008年にイ・ミョンバクが大統領になってから目立ち始めた政権のメディア介入の酷さを「占領」と「反撃」に分けて告発していたが、映画としては何とも迫力不足だった。また、韓国で政治介入が始まったのが2008年ということなら、日本よりはだいぶん遅いじゃないかとむしろ意外に感じた。五年前に読んだ東京スタンピード』(森達也 著)の読後備忘録にも記したが、安倍現首相が中川昭一衆院議員(故人)と連れ立って、NHKの番組編集に圧力を掛けた疑いがあると報じられた政治介入があったのは、2001年のことだ。

 その2001年という今世紀の始まった年は、世界を驚かせた 9.11.テロに端的に現れていたように、前世紀末の湾岸戦争以降、民主国家とされる国々において強権主義がはびこりつつあったことが、ある種、端的な形の出来事を引き起こした年でもあるという思いが僕には強く、それからすれば、少し遅れて起きたのだなという感じがした。ノ・ムヒョン時代がそうではなかったとすれば、そのことのほうが特別だったのかもしれない。

 韓国のKBSとMBCがそれぞれ公共放送局と公営放送局と使い分けられても、それが日本のNHKと、どう似通っていて異なるのか、さっぱり判らないが、本作でも政治介入を招きやすいから民営化すべきだといった意見があったから、政府との距離感は、わりとNHKに近いのではないかという気がする。

 映画のなかで「記者に質問をさせなくなったら、国は滅ぶ」という言葉も出てきた本作は、2017年の作品だから、隣国日本の官房長官が新聞記者に向かって回答拒否を公言した事件を当てこすったものではないのだが、なかなか時宜を得ていた。もっとも日本では、そんな官房長官が改元の元号を掲げたことで人気を得、調子に乗ったのか、今までにない訪米までするはしゃぎようを見せているのをメディアが後継者レースへの名乗りかと持ち上げているわけだから、敢然とストライキを打っていたらしい韓国の報道人とは、かなり違う。

 会場で配布された「鑑賞のしおり」によると、MBCを追われ、ネット系の独立メディア「ニュース打破」を立ち上げていた本作の監督が、この作品の公開された年の12月に新社長としてMBCに復帰したそうだ。日本のNHKでそういうことが起こるとはとても思えないから、やはり韓国からは随分と遠いように思われた。

 しかし、やはりイチバンは、メディアではなく、政権の側のほうが持つべき見識と矜持だろう。権力の座に就いたら、公共放送や国営放送とは距離を置く節操からは、今の日米首脳とも揃って歴代に類を見ない無節操ぶりだと思わずにいられない。本作の始まりが、弁護人でも偲ばれていた故ノ・ムヒョン大統領へのそこのところでの賛辞だったのは、作り手の想いがまさにそこに在ることの証左だというふうに感じた。
by ヤマ

'19. 5.10. 美術館ホール



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