『泣き虫しょったんの奇跡』
監督 豊田利晃

 豊田監督作品は、『青い春』『ナイン・ソウルズ』も肌が合わなかったけれども、十二年前に観た空中庭園がめっぽう良くて、その年度のマイベストスリーにも挙げたのだが、覚せい剤事件以後は、当地で監督作を観る機会がなくなっていた。

 久しぶりに観た豊田作品は、なんだかえらく気持ちのいい出来栄えの映画だった。監督自身が所属していたこともあるという将棋の奨励会の件のみならず、挫折からの再起ということではコミットする部分もさぞかし大きかったのではないか、と推察されるような感じがあったからかもしれない。瀬川晶司(松田龍平)と同じく、豊田監督も人に恵まれたのだろう。支えになってくれた人たちへの感謝の念が籠っているように感じられた点が気に入った。

 将棋の好きだった亡父から幼い頃に習った記憶では、強いほうが「玉」だと思っていたのに、反対だったようだ。あいにく僕は、将棋よりも囲碁のほうが好みで、親父の期待には沿えなかったが、それでも病床に就いて自宅療養となった晩年の日々の時々に、囲碁で相手をしてあげると喜んでいたものだった。

 瀬川棋士のことは、アマからプロ棋士に編入した当時のニュースで、その名に覚えがあるものの、将棋に強い関心があるわけではないから、プロになってからのことも、プロになる前のこともほとんど知らなかった。だから瀬川棋士本人による原作以上に、エンドロールにクレジットされていた『瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか』を読んでみたい気がした。また、小林薫の演じた強豪アマの藤田とイッセー尾形の演じた将棋道場の工藤席主のモデルがどういう人物だったのか気に掛かっている。
by ヤマ

'18. 9.18. TOHOシネマズ8



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