『夜間もやってる保育園』
監督 大宮浩一

 無認可のベビーホテルから始めて、今や完全オーガニックの給食による食育、特別支援を要する児童への療育プログラム、学童保育事業も手掛けるに至っている24時間保育の認可夜間保育園となった東京の“エイビイシイ保育園”を軸に、沖縄の玉の子夜間保育園、北海道のすいせい保育所などを通じて現在の保育事情を捉えたドキュメンタリー映画を観に行ったところ、早々に思い掛けなくも大学の語学クラスの同窓生である唐澤君が出て来て驚いた。

 六年前に会ったとき厚労省の大臣官房審議官だった彼に、主に介護分野で活躍してきたと聞いていた話を確認したら、そうだと言っていたから、いつの間に内閣官房統括官(実際は「内閣官房 内閣審議官兼まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官」[2018.8月退官]だったようだ。)になっていたのだろうと思ったが、併せてクレジットされていた元厚生労働省保育課長という経歴からすれば、内閣府が推進している「子ども・子育て支援新制度」の統括をしているのだろう。従前からの文科省による幼児教育を軸とした幼稚園と、厚労省による就労支援としての保育園のいずれにおいても、きちんとカヴァーできていなかった部分に内閣府が取り組んでいこうとしている流れからすれば、本作で取り上げていた夜間保育や療育プログラム、食育、学童などはまさに恰好の素材であり、領域なのだろう。

 文部科学省選定となっていて文化庁文化芸術振興費補助金の助成を受けて制作され、制作協力に内閣府とクレジットされた本作に登場するトップ官僚が厚労省出身者という実に見事なアンサンブルに感心するとともに、片野清美エイビイシイ保育園長の語る経歴に、ありがちな教育ドキュメンタリーフィルムにはない個人的な立ち入りを感じて大いに感心していたら、エンドロールに企画:片野清美、プロデューサー:片野仁志と夫妻の名がクレジットされて得心するというか、改めて感心を重ねた。非常に想いの詰まった映画になっていたように思う。大人も子供もここに映っていた人々が本当に健気に頑張って日々生きていることが、ひしひしと伝わってくる出来映えになっていたような気がする。

 それと同時に、映画の最初のほうで登場した厚生労働省職員の女性の「エイビイシイ保育園がなければ仕事を続けられなかった」という言葉と併せて「子どもを連れて留学したイギリスでは、17:00以降は家族の時間ということが徹底していて、不便かもしれないけれども、それも社会の一つの在り方だと思った」と語っていたのが印象深く残っている。本作のタイ人夫妻のようなダブルワークをしなければ生活できない労働環境のなかで、 それを支えるために夜間保育が必要となる社会というのは、やはり最善とは思えない。夜間保育園で働く保育士が困っている人を支えるやり甲斐と喜びを感じていると語りながらも、自分は夜間保育を利用したいとは思わないと語っていた部分は、作り手のメッセージだとも感じた。

 シングルマザーたちのみならず、外国人労働者夫妻である利用者の声も拾い、認可も補助も受けられないでいる保育園(たいよう保育園)の声も拾う点も含め、非常に射程の広いバランス感覚に長けた作品だったように思う。

 それにしても、片野仁志理事長、どこかで見たような気がする。メディア露出している方なのだろうか。あと、例によって特別支援を要する“多動的な子ども”の話になると、つくづく今の時代に生まれなくてよかったと思った。小学生になっても自分の席にじっとしていられなくて、椅子を取り上げられていた(僕)り、椅子に縄跳びで括りつけられた(弟)りしていた僕たち兄弟は、今の時代だと、普通学級には置いてもらえなかったのではないだろうか。
by ヤマ

'18. 9.21. こうち男女共同参画センター「ソーレ」



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