『スカイスクレイパー』(Skyscraper)
『デス・ウィッシュ』(Death Wish)
監督 ローソン・マーシャル・サーバー
監督 イーライ・ロス

 二十日ばかり先に観た『スカイスクレイパー』は、実にオーソドックスで且つ斬新という脚本の良さとアクション設計の見事さに感心した。新世紀の「ダイ・ハード:タワーリング・インフェルノ」とも言えそうな作品だ。保安システムに詳しくてパソコンも駆使できる役どころというのは、ドウェイン・ジョンソンにはできても、その前に観たばかりだった『MEG ザ・モンスター』のジェイソン・ステイサムには似合わないなと妙な感心をしていた。

 超ハイテク高層ビル「ザ・パール」が見舞われた火災とビルジャックに対抗する元FBI人質救出部隊長のウィル(ドウェイン・ジョンソン)が口にする「粘着ガムテープがあればなんとかなる」と「大概のトラブルは再起動で片が付く」のローテクぶりが妙に説得力のある形で効いてくる運びになっていて気に入った。そんなバカなと笑ってしまうようなところを妙に納得させてもらえるのが、よくできた映画の愉しみだと思う。本作では、ウィルの超人ぶりに引けを取らない妻サラ(ネーヴ・キャンベル)の活躍が目を惹くのだが、彼女が医師であるばかりか戦闘能力に長けていることについても確か、元軍医だとかいうような言い訳が施されていたように思う。いくら軍にいたとしても、女性医師が本格的な戦闘訓練を受けているわけないじゃないかと可笑しかった。

 また、ウィルの失意と超人ぶりを強調するためとはいえ、さすがに義足はやりすぎだろうと思っていたが、彼を義足にしただけのことはある運びに、それならと小膝を打った。家族愛を謳い上げるうえでは夫婦以上に父子関係への目配せが欠かせないわけだが、無論その点にも抜かりなく技を利かせていて、なかなか気持ちのいい出来映えの快作だという気がしたが、世評はそこまで芳しくはないようだ。


 元軍医だとのエクスキューズを添えなくても、ブルース・ウィルスが医師役というだけで何となく約束事として納得させられてしまった『デス・ウィッシュ』も思いのほか面白かった。エンドロールにクレジットされていた'74年版『デス・ウィッシュ(狼よさらば)』のニューヨークから舞台をシカゴに移しただけあって、リメイク作品ながら非常にアクチュアルな問題提起を孕んだエンタメ映画になっていたように思う。かなり意識的に経済格差拡大と社会的分断による荒みの問題に触れていたが、『狼よさらば』ではそのへんがどうだったのか、確認してみたい気がした。

 また、ニール・ジョーダン監督のブレイブ・ワンを観たときに、エリカ(ジョディ・フォスター)がこの後も更なる殺人を繰り返す可能性についてあれこれ考えずにいられなかったのと同じく、最後に指鉄砲を構えていたポール(ブルース・ウィリス)がこの後も“死神”を続け、「更なる殺人を繰り返す可能性」について、ふと思わずにいられなかった。トランプ政権下、銃規制問題が反トランプを掲げる側の政治課題としてクローズアップされてきているなか、銃器を使った私的制裁を肯定しているとも見受けられる作品を投じることに批判的な向きもあろうかと思うが、さればこそ、そういった制裁を施したくなるような凄惨で荒んだ事件を起こす元になっているものが経済格差拡大と社会的分断であることを明示していた点を僕は積極的に評価したいように思った。一瞥しただけで出所が明らかになるほどの高級時計を複数個手にすることのできる者と、頼みもしないフロントグラス清掃を僅かな停車の暇に勝手に施してチップをせがみ日銭を稼ぐしかない境遇にある者が同居している社会状況こそが銃器以上の元凶だと、僕も思う。

 銃の規制とともに、この問題の改善こそが最も重要なことなのだ。使用することが直接的に悲劇に繋がる高価な武器を防衛の名の下に買い募って産軍共同体に資する一方で、セイフティネットとしての生活保護費や年金支給額を財政難を口実に値切ることで弱者を切り捨て、生活不安や将来不安を増大させて経済を冷え込ませるような施策を採りたがるような政治家に地方再生を担当させようなどとする政権の支持者に、本作の底流にあるそういった部分を汲み取ることなど出来ないだろうとは思うけれども、本作の“私的制裁”を敢えて“自衛”と言い換えて個人の武装を“権利”などと言いだすことは少なくとも止めてもらいたいものだと願わずにいられない。




*『スカイスクレイパー』
推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-d2ba.html
 
by ヤマ

'18. 9.30. TOHOシネマズ7
'18.10.21. TOHOシネマズ9



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