『ゴッホ~最期の手紙~』(Loving Vincent)
監督 ドロタ・コビエラ&ヒュー・ウェルチマン

 アルトマンの『ゴッホ』['90]をこの映画館で観たのは、四半世紀余り前のことになる。僕が生まれる前の作品である『炎の人ゴッホ』['56]は、十代の時分にTV視聴したきりだ。それでも、絵画史上、最も有名な画家の一人であるに違いないフィンセント・ファン・ゴッホの生涯と謎に包まれた最期について何も知らないわけではないから、いかにもドラマティックに仕立てられた邦題に、本作には何が込められているのか楽しみにしていたが、印象深かったのは、まさに原題の“Loving Vincent”のほうで、ドラマ的深みには乏しい気がした。

 それにしても、96分を油絵によるアニメーションで構成したのは偉業と言う他ない。たいへんな労力が窺えるのだが、何だかそれ自体を愉しんでいる感じがあった。この技法が映画的に効果的だったかというと、僕には必ずしも有効に作用して来なかった気がしている。最初のほうこそ、「おぉ~」と圧倒されたが、ゴッホ・タッチの画像が動くのを観ているうちになんだか目が疲れてくるのと同時に、少々倦んできてしまうばかりか、動かない絵だからこそ、かのタッチが躍動感を見事に表現しているのであって、実際に動いてしまうと躍動感そのものは、むしろ減退されることに気づき、そうなると粗い画面が動くことでの観づらさのほうが意識されてきたように思う。

 ゴッホの絵画そのものを映画のなかに取り込む技法としては、'90年に観た黒澤明ののほうが効果的だったような気がするけれど、本作に関わった全ての人がゴッホを愛し、敬服していることが伝わってくる内容になっていたように思う。




推薦 テクスト:「チネチッタ高知」より
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by ヤマ

'18. 5. 4. あたご劇場



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