『心が叫びたがってるんだ。』
監督 熊澤尚人

 二年前に観たアニメーション作品はマイベストテンにも選出した秀作で、実写映画でどうなるのか、かなり不安だったところに、本作の導入部では四人の演技も妙にぎこちなく、何とも心許なかったのだが、物語が進むにつれ、全然気にならなくなっていったことに感心させられた。展開も結末も既知の物語だったから、初見時に受けたほどの感銘はなかったが、最後のミュージカル場面には心打たれるものがきちんと宿っていたように思う。

 アニメーション作品で鮮烈だった透明感は、アニメならではの部分もあって、実写映画化では相当にむずかしかろうと思っていた。その点からすれば、かなり健闘していた気がする。二年前の映画日誌に言葉の重さ大切さをよく知る人の作品だという気がしたと記し、十代特有と言ってもいいかもしれない内省力と感化力の瑞々しさが余すところなく描き出されていたような気がする。苦しい思いを蓄積させてきたからこそ濃縮され起爆力を備えるに至った才というものを順も拓実も窺わせ、いいとこ取りのない“人生というものへの是非なき肯定感”に包まれていたところが気持よかった。と結んだ部分は、実写版においても、よく描き出されていたような気がする。

 作中でも「ミュージカルにすることで言えるようになり伝えられるようになる言葉」という言及があったが、やはりミュージカルはいいものだと改めて思わせてくれる作品だ。クラス担任と思しき音楽教員のシマッチ(荒川良々)の「ミュージカルには奇跡が起こるんだよ」との台詞が利いていて、坂上拓実(中島健人)の台詞ではないが「“せい”ではなく“おかげ”」で、違和感なく肚に落ちてくるようになっていた。

 それにしても、『幸福な食卓』のときの北乃きいを思わせる芳根京子がなかなかよかった。随所でとてもいい表情を見せていたように思う。
 
by ヤマ

'17. 7.25. TOHOシネマズ8



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