『COLD BLOOD -コールド・ブラッド-』
ジャコ・ヴァン・ドルマル&ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ

 ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ×ジャコ・ヴァン・ドルマル監督×ダンスカンパニー・アストラガルによる指先のダンスとともに、再び人生の幕が上がる「7つの死の物語」と謳われた“コールド・ブラッドすなわち死”と目される作品は、実際に動いている鉄道模型を追ったりしていた前作『キス&クライ』には及ばずとも、圧巻の撮影技術&カメラワーク、照明及び小道具によるノー・エディット、ノー・ポストプロダクションの驚くべき映像が展開されるライブ・パフォーマンスだった。

 7つの死は、①飛行機事故による墜落死、②自動車事故によるスピード死、③ブラホックを喉に詰まらせた窒息死、④錠剤による服薬死もしくは流し台での溺死、⑤気候変動による死、⑥食事にまつわる死、⑦宇宙船での減圧事故死、だったように思うが、7つの死の種類それ自体には、さしたる意味も触発も感じられず、専ら目を惹いたのは、指先のダンスが繰り出す様々なダンスパフォーマンスだった。

 最初に登場したのは、①での純白のダンスホールでの踊り。③でのポールダンスは、なかなかの見物ではあったが、若い女性の手で映し出してほしかった気がする。⑥を幕開けた愛と哀しみのボレロ監督・脚本 クロード・ルルーシュ)を彷彿させるモーリス・ベジャール振付によるジョルジュ・ドンの踊りを想起させて始まったパフォーマンスがなかなか見事だったが、⑦で繰り広げられた、万華鏡を使ったような映像で指先によって人型の乱舞を現出したパフォーマンスに吃驚させられた。カメラワーク以上に手の込んだ指の動きのアクション設計が施されていて、狂いのないパフォーマンスが果されなければなければ、見せることのかなわない驚くべき動きだったように思う。

 好みとしては、タイトルの「キス&クライ」すなわち「愛と哀しみ」が示している物語性と情緒を主軸にした前作のほうが、ダンスパフォーマンスに主軸を置いた本作より僕には響いてきたが、圧巻のパフォーマンスであったことに変わりはない。乗り物では、とにかく汽車が印象に残っている前作に比して、飛行機、自動車、ロケットと多彩に登場していたが、実際に動いたものはなかった。ドライブインシアターを映し出した造形と、ボレロのステージから見える実際の客席を映し出したカメラワークに感心した。奇しくもS席最前列中央で観ていたので、まともに自分の姿を観ることになって吃驚した。

 それにしても、八年前の『キス&クライ』が前売り3000円だったのに対して、今回は7500円と2.5倍に跳ね上がっていた。これが県の指し示している「自律性向上団体」ということなのだろうか。いま驚くべき興行成績を挙げている映画国宝なんぞ軽く凌駕すると思われる見事なステージパフォーマンスだったが、客席は6割程度の入りに留まっていた気がする。なんとも勿体ないことだ。同額興収なら、7500円×0.6=4500円で満席のほうが遥かに値打ちがあるように思うのだけれども、そうは考えないのだろう。




参照テクスト:“キス&クライ”ライブ備忘録
https://www7b.biglobe.ne.jp/~magarinin/2017/27-1.htm
 
by ヤマ

'25.10. 5. 美術館ホール



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