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『キス&クライ』(KISS & CRY) | |||||
ジャコ・ヴァン・ドルマル&ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ
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ライブを撮った映像作品は数々あるけれども、映像作品自体がライブそのものであるような作品は初めて観た。この素晴らしく美しくて生命感に満ちたライブ・パフォーマンスが、ポストプロダクションを掛けられないリアルタイムでどうして、ライブで目撃する姿以上に美しくて深淵なる映像として映し出せるのかと、その撮影照明プランの周到さと奇跡的なまでの遂行度の高さに感嘆しつつ痺れた。 ステージ中央に吊り下げられたスクリーンに映し出される映像には驚くほどのアイデアが詰まっていた。ミニチュアの舞台装置や小道具【ステファノ・セーラ、イヴァン・フォックス、ガブリエラ・イアコノ】の巧みな引きやら幾つものカメラの切り替えによる場面転換が繰り返されながら、切れ目なく映し出されるのだが、そのスタッフワークの見事さに圧倒される。まるでダンスをしているかのように美しく無駄のない動きでカメラを操るジュリアン・ランベールの姿にも惚れ惚れとし、同時に次の展開や撮影場面の準備を間髪入れずに段取っているスタッフの動きが興味をそそって何をしようとしているのか気にかかりつつ、実際の場面転換の出来栄えをスクリーンで確かめて感銘を受けるという、全く以て眼の遣り場に忙しい、実に刺激的な時間で、何とも魅力的な映像だった。舞台での使用が嫌われる本物の火や水も使い、ミニチュアとは思えないスケール感と質感を発揮し、海も空も映し出す照明【ニコラ・オリヴィエー】やカメラの見事さに圧倒されたのだ。 だが、本作のオープニングが全く映写のないなかでメンバーたちが鳥の囀りを笛で奏でるものであったように、映像を見せることだけが目的の作品では決してない。何よりも、振付を担ったミシェル・アンヌ・ドゥ・メイを含む二人のパフォーマー【ミシェル・アンヌ&グレゴリー・グロジャン】の披露する手指のダンスやスタッフワークの動きそのものの美しさがあってこその作品だ。本公演の関連企画上映会で一か月前に観た劇映画『神様メール』(監督 ジャコ・ヴァン・ドルマル)で垣間見ていた手指のダンスが90分間にわたって繰り広げられるのだが、実に表情豊かで、ときに官能的に、ときに象徴性に富み、ダンスしている手や指が人にも異種生命体にも鼓動を打つ心臓にも風にも神にも見えたりして変転していく。そして、まさに手指そのものの動きとしても美しく表現されていく。特に印象深かったのは、♪枯葉♪に乗せて繰り広げられた恋模様であり、序盤での生命の誕生からの人の営みを思わせたかと思うと、小さな人型を織り込むことで人類を超えた大きな生命の存在を映し出したヴィジョンだった。また、鏡で折り返したシンメトリーによって造形されるシンボリックな指の動きの醸し出す面白さにも瞠目させられた。 リアルタイムで一つのカメラ画像のなかに別のカメラによる画像が入り込む様子がステージ上の二つの場面で確認できるというマジカルなパフォーマンスは、コンピューター抜きになしえないことだろうが、それにしても凄い。なんだかとてつもないものを見せてもらったような気がする。2列目中央という席にも恵まれ、堪能することができた。ミシェル・アンヌの指は、どうしてあんなにしなやかに動き、深く曲がり反ることができるのだろう。前もって彼女のダンスフィルムを観ることができて有益だった関連企画上映会での記録映像におけるダンス以上に魅せられた。ステージ上では、カメラで映し出されてはいない振付として演技を見せる部分があったり、スクリーンに映し出されるフレームやカメラアングルにおける自身の手指を確認しつつ演じているスタッフワークを見せている部分があったりと、片時も目が離せないなかで様々なことがステージ全体で起こっているのだから、全く堪えられない面白さだった。そんななか、体形のもたらすものだったのかもしれないが、他のメンバーの無駄のない動きとは一味違って半ば悠然と舞台のなかをうろつき、スモークを噴出させるなどしていたジャコ・ヴァン・ドルマルの対照的な姿が他のメンバーの動きに際立ちを与えていたような気がする。 フィギュアスケートの採点結果を選手たちが待つ席に置いてあるベンチシートの名前から取ったことが作中のナレーション(リリー・フランキー)によるテクストで示されていた『キス&クライ』になぞらえるなら、満点の歓声が沸くに値する見事なステージだったように思う。それにしても、この公演が日本では高知でしか行われない効率の悪さというのは何なのだろう。高知県立美術館は、いくつか声も掛けたそうだけれども応じてもらえなかったらしい。何とももったいない話だ。 参照テクスト:“『キス&クライ』日本初演”ライブ公演の予告映像 https://www.youtube.com/watch?v=9n7acNX4qd4&feature=youtu.be | |||||
by ヤマ '17. 9.16. 美術館ホール | |||||
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