『幸せなひとりぼっち』(En Man Som Heter Ove)
監督 ハンネス・ホルム

 原題の“オーヴェという名の男”は奇しくも今の僕と同じ59歳だ。幸いにも僕は未だ無職ではないし、妻に先立たれてもいなければ、ひとりの友人もいないという孤独な境遇ではないから、オーヴェ(ロルフ・ラスゴード)のように自殺を試みたことはまだ一度もない。妙な気真面目さと頑なさが前面に出てしまうキャラクターもまた自分とは少し違う気がするものの、これについては率直に表現しないだけで、気持ちはわからぬではない気がするのは、スウェーデンと日本という国柄は違えど、同じ年頃を迎えているからかもしれない。半年前に亡くしたという愛妻ソーニャ(イーダ・エングヴォル)の墓石に刻まれていた1956―2014からすると、二人は同い年で、今から二年ほど前のことだったようだ。

 それからすると、日本でも昭和の時代それも30年代には、まさに本作で描かれたような老境を描いた作品があったように思うものの、今や日本ではオーヴェのような気真面目さと頑なさを近所に振り撒くことで煙たがられている男を描いて同時代の作品とできるような地域共同体に対する時代感覚は失くなっている気がした。チラシに書かれた「スウェーデンで国民の5人に1人が見た、史上3位の記録的大ヒット映画!」というのが、スウェーデンにおいても今や失われた人物像へのノスタルジーが作用してのものなのかどうか、知りたいように感じた。

 また、福祉国家で名高いスウェーデンの既成イメージには少々似つかわしくないように感じられる障碍者問題や就労環境が率直に表われていたところも目を惹いた。フレドリック・バックマンの原作小説の映画化らしいが、もしかすると時代設定を変えているのかもしれない。

 果たせなかった首吊り自殺というところに、容疑者Xの献身での孤独と絶望や半落ちでの亡妻への追慕を思い、予期されない葬儀の賑わいにおみおくりの作法を思い出したりしたが、半年余り遅れて逝った甲斐のある顛末に、観ているほうも何だか拾い物をしたような得した感じの残る作品だったように思う。
 
by ヤマ

'17. 5.15. あたご劇場



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