『おみおくりの作法』(Still Life)
監督 ウベルト・パゾリーニ

ヤマのMixi日記 2015年04月26日20:52

 孤独死をした人の遺族調査から葬送に至る仕舞をつける仕事は、事件性を帯びてなければ警察の管轄外だろうから、日本でも似たような役所の担当部署がやっているのだろう。そう考えると、ジョン・メイ(エディ・マーサン)か手掛けていたような“おみおくりの作法”は、きわめて例外的なもので、普通は葬送曲の選曲にまでこだわったりはしない気がする。

 44歳のジョン・メイが22年続けているように言っていたから、日本の役所のように定期異動で部署が替わったりしないようだし、若い上司から仕事のやり方を咎められての転職などというのも日本の公務員では考えられず、ロンドンの民生係はどういう仕組みになっているのだろうかなどと思った。

 考えさせられたのは、ちょうど僕自身が若かりし頃、葬儀は死者のためにあるのではなく遺された者にとってのみ意味があるというようなことを言っていた覚えがあって、ジョン・メイの上司が同じことを口にしていて思い出さされたのに、最後の場面にある種の感慨を覚えた僕自身の変化についてだった。

 年嵩がいくというのは、そういうことなのだろうか。単純な年齢順で言えば、当たり前のように遺す者がいなかった時分と、まもなく6人目の孫が誕生しようかという晩節を迎えつつある現在との違いなのだろう。

 ふだん自分の葬儀なんかは要らないなどと思っているのに、そして、その思い自体は基本的には変わらないのに、ジョン・メイの丁寧な仕事ぶりを非現実的と観るよりも、好もしく感じたことに少々慌てた。どうしてなのかなぁ。


コメント談義:2015年04月26日 21:33~2015年04月28日 20:54

(マタンゴさん)
 ジョン・メイは、たぶんほかの仕事であっても、同じように
 真摯にこつこつ向き合っていたのだと思いました。

 その人物像に、私は「惚れた」のであります。

ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、マタンゴさん、

 なるほど、おみおくりであろうがなかろうが、作法自体の美しさに心動いたのか。
 それなら了解できます、自分でも(笑)。
 考えてみれば、最後の場面は、おみおくりではなく、おむかえですもんね。
 あんた、いい仕事してたよ~って、彼の仕事ぶりを認めている人たちが
 集って迎えに来たのであって、みおくりの葬儀じゃありませんでした。
 ありがとうございました。

 もっとも、僕は、あの机の上の“静物”の位置にもこだわり整える几帳面さは、
 必ずしも支持し共感するところではないのですが(笑)。

 ところで、マタンゴさん、
 原題の「Still Life」の意味するところについては、どのようにお考えですか?

(マタンゴさん)
 「Still Life」については、初めは、そのまま、ジョン・メイの「静かな生活」なのか
 と思っていました。その後、「静物画」を意味する言葉でもあることを知りました。

 西洋画のなかには、いろんな「お約束事」があるらしい。
 特に静物画は、いろんな意味があるらしい。
 どうやら、静物画は「死」の象徴でもあるらしい。

 ならば、静かな生活(几帳面で、自分でつくった約束事のなかで「躍動感」とは対極な生活
 を送っているジョン・メイの仕事が「死」に直結しているのは、「Still Life」そのもの。
 そして、最後に「死者」を介して、生者を「動的」に結び付け、
 自身も「躍動感」をもって歩き出した途端、「Still Life」に閉じ込められてしまったジョン。

 打ちのめされる観客に対し、「死者」に祝福をさせることによる
 カタルシスを与えるのもまた、「静物画」的である…。

 な~~~~んちゃって、「らしく」ない「解釈」をしてみました。

ヤマ(管理人)
 いやぁ、素晴らしい。
 ジョン・メイの生活は、仕事としての関わりの面だけではなくて、
 “静物”的佇まいであることからして、本質的に「死」に直結しているわけですね。

 それは、決してネガティヴな意味での死ではなくて、
 躍動感とは対極的な落ち着いた佇まいとしてあるわけで、  そのように考えると、
 映画を観ていたときには唐突で衝撃的に感じられたジョン・メイの死というのは、
 彼の静物画的な生活の一つの到達点のようでもあるように思えます。
 観ようによっては、迎えに来た大勢の死者たちの姿は、
 祝福でもあると言えるのかもしれませんね。

 非常に刺激的なビジョンが得られました。お訊ねしてみて良かったです。
 どうもありがとうございました。

(マタンゴさん)
 いや~~、「書く」という作業は大事ですね。
 実は、上記のようなことは書くまではしっかり形になっていなかったのです。
 「書く」ことによって、思考は深まる…。

 ま、別の見方をすれば、「小手先の屁理屈」ともなりかねませんが…。
 でも、せっかく珍しく「考えた」ので、
 コメントを自分の日記に残しておきますね!(←ちゃっかりマタンゴ

ヤマ(管理人)
 う、鋭い!(笑)
 ま、別の見方をすれば、「小手先の屁理屈」ともなりかねませんが…。
 ま、書こうが、書くまいが、思考を“深める”ことが自家薬籠に向かうと
 そうなりかねないことが多いような気がしますね。





推薦テクスト:「マタンゴさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1941497369&owner_id=1323062
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1941466647&owner_id=3700229
推薦テクスト:「映画感想*観ているうちが花なのよやめたらそれまでよ」より
https://kutsushitaeiga.wordpress.com/2015/02/01/still_life/
推薦テクスト:「眺めのいい部屋」より
http://blog.goo.ne.jp/muma_may/e/0ece07fe0b09cc80c907079399988e63
編集採録 by ヤマ

'15. 4.26. あたご劇場



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