『オケ老人!』
監督 細川徹

 やはり音楽映画はいい。原作は小説のようだが、漫画や小説と違って音の出る映画ならではの強みがある。

 コンサートに挑むことで♪新世界♪を開いたであろう梅が岡交響楽団の面々のように♪威風堂々♪と老後の人生を謳歌したいものだが、「ボケ老人になるのが嫌なら、オケ老人に挑まなきゃいけないのかなぁ」などと思った。なんだか、僕が自主上映活動に携わっていた頃のことをあれこれ触発されて、妙に心穏やかならぬ想いに駆られる作品でもあった。

 そして、先ごろ亡くなった田辺浩三さんが映画会で上映していた作品群は、このアマチュアオーケストラの梅響が上演したドボルザークやエルガーだったような気がした。時にフィルムの状態も劣悪で、スクリーンは概ねいつも波打つ木綿布の画鋲留めで、1台の映写機ゆえにフィルムチェンジのために場内の電気を点灯して中断するという、生真面目な映画愛好者からすれば、こんなのは映画鑑賞とは言えないという代物だったが、梅響の演奏が小さな巨人との異名を持つ世界的な名指揮者ロバール(フィリップ・エマール)を感動させ、音楽の素晴らしさを伝えていたように、映画のよさ、映画作品の素晴らしさを伝えていたように思う。最も大事なことを伝えるうえでは、音響であれ映写であれ、より高き技術、より良き環境が最重要事項ではないことと共に、欠いてはならないものがあることを教えてくれていた気がする。

 音楽でも全く同じことであって、本作は、そのことをとてもよく伝えていたように思う。心臓への負担が大きいからと、もう指揮の出来なくなった団長の野々村秀太郎(笹野高史)に替わって、ヴァイオリニストから指揮者に転向した数学教師の千鶴(杏)が、彼がコンマスとしてオケに復帰した際に送る賛辞において明言されていた。基本的にコメディとして作られているので、説教がましいところが微塵もないのがいい。

 僕は僕なりに、バドミントンであれ芸術鑑賞であれ、好きなことをずっと続けてきているけれども、しばらく中断していた公式試合への出場を五十路になって復活させたように、2001年3月に高知映画鑑賞会を解散させて以来、積極的には参画しなくなった上映活動に対して、定年を迎えたら復帰してみるのもいいかもしれないなどと思わされた。

 それとも、新たに始めるオケ老人なり、お芝居のほうが面白いかなぁ。




推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-569e.html
by ヤマ

'16.12. 1. TOHOシネマズ5



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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