『ルドルフとイッパイアッテナ』
監督 湯山邦彦&榊原幹典

 羽川翼(声:堀江由衣)が「パンツ見せて」と主人公の阿良々木暦(声:神谷浩史)から戦いに挑む前に乞われてスカートの裾を挙げ、それで勝った阿良々木が次の戦いでは、より難敵に挑まなくてはならなくなっていること受けて、翼が「元気だして」ということで、自発的に履いていたパンツを恥ずかしげに脱いで阿良々木に渡していた、吸血しないヴァンパイアのスプラッター劇である『傷物語〈II 熱血篇〉』だの、刑務所に似つかわしく♪朝日のあたる家♪で始まり、CCRの♪フォーチュネイト・サン♪が流れ、最後は、クィーンの♪ボヘミアン・ラプソディ♪で終わるといった僕らの時代の音楽満載だったピカレスク・アクションの『スーサイド・スクワッド』だのを観たばかりだということが作用したのかもしれないが、思いのほかに素敵な『ルドルフとイッパイアッテナ』に心打たれ、小学一年生の孫と一緒に観に行くよう長男に言付けることにした。

 確かな生を得るのに必要なものは、野良のトラ猫であるイッパイアッテナ(声:鈴木亮平)が文字を覚え書物を読むことで得られると若きルドルフ(声:井上真央)に教える“教養”と、潜り込む学校の教室の壁に張り出された習字作品に列挙されていた文字である“ともだち”の二つに他ならないとする作り手の率直な思いが、気持ちよく伝わってきた。そして、幼い時分に図鑑や百科事典をめくるのが好きで、物知りだと誉められては有頂天になっていたことを思い出したり、何事であれ初めての体験というものを好んでいた若い時分の旺盛な好奇心を懐かしむ気分に誘われた。

 猫の身で岐阜ナンバー御苦労さん(5963)の車に乗り込んで、東京から岐阜を目指すルドルフの独り旅に比べれば、モーターサイクル・ダイアリーズ』の映画日誌に綴った、東京・高知間といえども原付バイクで帰ってくる旅や野宿をしながら走った二泊三日の自転車旅行など、たかの知れたものでしかない気もするが、僕にとっては大きな意味を残している体験だ。ルドルフが図らずも飼主の家を出ることでイッパイアッテナたちと出会い、そのことによって果たした成長を観ることが、とても気持ちよかった。
by ヤマ

'16. 9.30. TOHOシネマズ4



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