中島みゆき 夜会vol.18 「橋の下のアルカディア」-劇場版- 』


 二週間ほど前にBSプレミアム録画の「中島みゆき名曲集 豪華トリビュートライブ“歌縁”&貴重映像を観て、メモにもう四十年歌ってきてるんだなぁ。同時代シンガーの彼女の楽曲には愛聴したものが数多くあるから、名曲としてセレクトされる楽曲がどれなのか興味深かった。
 さわりだけ流したものを除いて、ざっと15曲。やはり'70年代が7曲と最も多かった。『あばよ』['76](研ナオコ)、『わかれうた』['77]、『ミルク32』['78](満島ひかり)、『化粧』['78](大竹しのぶ)、『「元気ですか」~怜子』['78](中村中)、『この空を飛べたら』['78]、『世情』['78](クミコ)。'80年代が3曲で、『雪』['81](坂本冬美)、『あした』['89]、『黄砂に吹かれて』['89](華原朋美)。'90年代も3曲で、『空と君のあいだに』['94]、夜会より『公然の秘密』['96]、『命の別名』['98](中島美嘉)。'00年代が1曲で『地上の星』['00]、'10年代も1曲で『麦の唄』['14]。
 本人の歌唱が素晴らしいのは当たり前だが、トリビュートで歌った8人の選曲の良さに感心。各人の持ち味がとても活かされているように思った。とりわけクミコの『世情』、満島ひかりの『ミルク32』、坂本冬美の『雪』が気に入った。
 これで僕の好きな『小石のように』があれば申し分なかったが、あれも'70年代だから、そうもいかないだろうとエンディングで流れていた『時代』['75]を聴きながら思った。この曲を初めてFMラジオで聴いた十代のとき、思わず手を止めて聴き入った覚えがある。
と記したとき、地元劇場での夜会の劇場版上映の話をしたら、珍しく妻が観に行きたいと言ったので、一緒に観てきた。

 僕が夜会を観るのは初めてだが、一年余り前の公演時に“6年ぶりの書き下ろし作品”となった本作に、思いのほか強く“戦争の影”が差していて、過去最多数の曲を収録する力の入った作品になっていたことには、昨今の社会状況が影響を及ぼしているように思えて仕方のないところがあった。乱暴に概括するならば、強き者から蔑ろにされる“棄民の唄”とも言うべきものを、ミュージカル『キャッツ』と映画永遠の0を想起させるような趣向の元に綴った作品だったように思う。

 オープニングの橋元ひとみ(中島みゆき)の曲の歌詞にもあるように「棄てられた」というと何故「橋の下」なのだろうと笑わされた物語が、最後には悲愴なまでの壮観をステージ上に現出させる。その展開と歌唱の迫力に圧倒された。猫のすあま(中村中)が歌っていた♪人間になりたい♪が心に響いてくるのは、権力者から人身御供にされるような“棄民”が決して遠い昔話ではないことが、哀しいことに身に沁みる時代になってきていると感じるからなのだろう。

 それにしても、出演者みなびとの歌唱力の素晴らしさに感嘆した。その一方で、瀬尾一三の編曲があまりに続けざまに派手なオーケストレーションで圧してくるようにも感じた。




推薦テクスト:「転轍される世界 中島みゆきと夜会をめぐって」より
https://soiree.belle-neige.net/yakai/vol18-19/338
by ヤマ

'16. 2.28. TOHOシネマズ3



【追記】'23.10. 1.
 BS松竹東急日曜ゴールデンシアターの録画で、夜会vol.13『24時着0時発』['04](監督 翁長裕)を視聴。
 僕が観ている「夜会」は、vol.18『橋の下のアルカディア』だけで、しかもライブではないのだが、七年前に観たそれよりも一昔以上前の vol.13 を観ながら、つくづく中島みゆきは、他に追随できる者のいない境地を行く唄歌いだなと改めて思った。実に大したものだ。
 一緒に視聴していた妻が、えらく若いねと言うので、エンドロールを注視していたら、2004年のライブ公演を撮ったものだった。もう二十年近く前になるわけだ。
 どこか『銀河鉄道の夜』を思わせる観念性と肌感覚というものを漂わせ、自身と自身の影とが、いつの間にか入れ替わるような自己探求の旅が描かれていたように思う。そう言えば、ミラージュというのは、車の名前にもあったような気がする。
 それにしても、本編が始まってからは最後まで一切CMが入らなかったことに驚いた。中島みゆきの威光なのだろうか。それもまた大したものだ。



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