“美術館と繋がる大切な宝物”映画上映会

『光りの墓』
(Cemetery Of Splendor)
監督 アピチャッポン・
     ウィーラセタクン
『みんなのアムステルダム国立美術館へ』
(Het Neuwe Rijksmuseum)
監督 ウケ・ホーヘンダイク
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』
(National Gallery)
監督 フレデリック・ワイズマン

 数年前に『ブンミおじさんの森』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した映画監督による、相も変らぬ風変わりでへんてこりんな劇映画と、美術館をモチーフにした2本のドキュメンタリー映画を組み合わせた3本立がどうして「美術館と繋がる大切な宝物」という企画上映になるのか腑に落ちなかったが、チラシによれば、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督もフレデリック・ワイズマン監督も高知県立美術館に招聘した所縁のある監督で、『みんなのアムステルダム国立美術館へ』は、前作を高知県立美術館で上映しているという所縁によるセレクトのようだ。

 さすれば企画タイトルにある美術館というのは、一般名詞としての美術館ではなく“当館”というような意味だったのかと合点がいった。高知県立美術館の映画事業で上映プログラムの作品選定理由を明示したのは、開館以来初めてのことではないかと思う。今回のセレクションの企画上映のコンセプトとしての良し悪しはともかく、公立文化施設として作品選定理由を明示し、この上映企画によって何を表現し伝えようとしているかを示すのは、とても大事なことであり、公共上映のとるべき姿だとかねてより求めてきたことだった。

 午前中に観た『光りの墓』では、屋外での排便の実写をスクリーンで観るのは35年前に観た『ピンク・フラミンゴ』以来ではないかとの想いが湧いたことに失笑したが、なぜアピチャッポン監督のへんてこ劇映画が混じっているの?との疑念を抱いたプログラムが美術館上映としての当館所縁のセレクションと知れば得心がいく一方で、それなら、『みんなのアムステルダム国立美術館へ』なんかじゃなくてセレクトすべき作品があるだろうと、八年前に今は亡き坂東眞砂子との対談を美術館ホールで行った河瀨直美監督の高知未公開作『2つ目の窓』['14]や十五年前のブラジル映画祭で来高したネルソン・ぺレイラ・ドス・サントス監督『アントニオ・カルロス・ジョビン』['11]などを想起した。

 とはいえ、作品的には『みんなのアムステルダム国立美術館へ』は、『光りの墓』よりも数段面白くて、市民の交通の利便を悪化させるとの理由や委員会の思惑の揺れから、国立美術館の改修が遅れに遅れて10年間も閉館が続いたという顛末が、奇しくも昨今の東京五輪を巡る国立競技場の改築問題や築地市場の移転問題を想起させ、なかなか興味深かった。

 確かに時間を掛け過ぎているとは思うものの、時間コストには替えられない何かを民主主義の名の元にオランダは大事にした側面もあったのではないかという気がしたのだ。効率・即応の名の元に横暴に近い拙速を許容することに馴らされてしまっている今の日本ではとうてい容認されない事態のように思う。また、高知県立美術館の開館に関わった個人的な事情から、本当に実に様々な要望主張が舞い込む難儀にかつて見舞われた経験を幾つも思い出し、懐かしいやら苦々しいやら、妙な気持ちになった。

 断然面白かったのは、やはりワイズマンの『ナショナル・ギャラリー』だ。ナショナル・ギャラリーは、二十歳の頃、ロンドンに旅したときに訪ねたことがあって、本作でもフィーチャーされていたダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』に心惹かれた覚えがあるのだが、美術館内部の様相そのものはあまりに自分の目に新しくて驚いた。観覧客のみならず、取材や業界関係者、修復技術者のインターンシップらしきものも含め、美術館に訪れるさまざまな人たちの姿を捉え、美術館の抱える多様な側面を見せつつ、レンブラントやルーベンス、ターナーなど名にし負う名画の数々や企画展示をスタッフによるギャラリートークの様子などとともに捉え、相変わらずの見事な編集だった。

 そのなかで最も面白かったのは、修復部門の舞台裏に関するもので、「完成したその日から物理的に劣化の始まる作品の修復は復元とは違う」との修復師の弁だった。黄色劣化したワニスを塗り直す細密作業と認知していた部分が大きく変わった。そして、ティツィアーノの『ディアナとアクタイオン』と『アクタイオンの死』を間口を隔てて並べた展示の前で演じられたバレエの幻想的な美しさに観惚れた。




参照テクスト:“美術館と繋がる大切な宝物”映画上映会
http://www.kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/contents/hall/hall_event/hall_events2016/bijyutukan-eiga/hall_event16-bijyukaneiga.html



*『みんなのアムステルダム国立美術館へ』
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=3700229&id=1938502397
by ヤマ

'16.11.20. 美術館ホール



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