『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK ‐The Touring Years』
 (The Beatles:Eight Days A Week-The Touring Years)
監督 ロン・ハワード

 ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞のニュースたけなわのなか、ディラン以上の雄とも言うべきビートルズのドキュメンタリー映画を観て来た。

 ビートルズとなれば、すさまじいボリュームのアーカイヴ素材があるだろうし、実にさまざまな切り口が想定できるはずなのだが、彼らにとってのライブに焦点を当て、「The Touring Years」とのサブタイトルを充てて一週間で八日分の奔走を重ねていた姿を活き活きと描き出しており、大いに感銘を受けた。

 劇映画ではあるが、実在した天才レーサーを鮮やかに描き出したラッシュ/プライドと友情をものしたロン・ハワード監督だけのことはある。映画としての骨格とテイストに相通じるものを感じた。しかし、考えてみれば、そういった切り口の観点から讃えるならば、脚本にクレジットされていたマーク・モンローのほうになるのかもしれない。

 各地でのライブ映像とインタビューによって構成しつつ、大聴衆を獲得するに及んでライブ公演の開催が困難になっていったビートルズを辿り、スタジオ録音に集中することで生み出し得た音楽的業績を明らかにしたうえで、最後もまた、アップル社の社屋の屋上で久しぶりのライブを内々でおこなったものの記録映像だった。

 最悪のレコード契約をしてしまっていたから、ライブで稼ぎ出すしかないと零しつつ精出していたものが、桁外れの集客を果たすようになって、5000人くらいの会場では場外にあぶれた群集に手を焼くから困ると言われるようになり、そこで桁外れの収容ができる野球場を使ってコンサートを開くに至るわけだが、5万6000人の「聴衆の凄まじい歓声でギターもボーカルも聞こえないからメンバーの頭や腰の動きに合わせてドラムを叩いていた」とリンゴが証言していた1965年のシェアスタジアムでの公演が、本編の終わった後、劇場限定特典映像として付いていたのが圧巻だった。

 当日のセットリスト全曲(①ツイスト・アンド・シャウト、②アイ・フィール・ファイン、③デイジー・ミス・リジー、④涙の乗車券、⑤アクト・ナチュラリー、⑥キャント・バイ・ミー・ラブ、⑦ベイビーズ・イン・ブラック、⑧ア・ハード・デイズ・ナイト、⑨ヘルプ!、⑩アイム・ダウン、⑪シーズ・ア・ウーマン)が4Kリマスターの編集によって再生された30分余りに及ぶ特典映像を観ながら、当時、その場にいた聴衆も、当のビートルズたちも、きちんと聴くことが出来なかったと思われるシェアスタジアムでの彼らの歌声や演奏のパフォーマンスの高さに驚かされつつ、感動を覚えた。

五十年前の機材ではとうてい充分な音響を確保できず、聴衆も音楽を聴いているとは言えない状態になることに懲りて、ジョンがライブを止めようと言い出したと本編で語られていたのだが、再生された歌唱は、躍動感とハートの籠った素晴らしいものだった。本編でも感じていた彼らの“ピュアな音楽好き”を改めて印象づけられた気がする。観に行って本当によかった。




推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dfn2005/Review/2016/kn2016_12.htm#05
 
by ヤマ

'16.10.18. TOHOシネマズ3



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