『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(Mr.Holmes)
監督 ビル・コンドン

 あまりにピュアで眩しい若者たちの姿に唖然としながらも次第に、とことん美しく充実した青春物語に心洗われる気持ちになった『青空エール』だとか、確かに“夜の綱渡り”にも等しい危うく不穏な女子高生時代を生き延びる姿を描いた少女だとか、今をときめく広瀬すずの圧倒的に強力な魅力に目を瞠った『四月は君の嘘』だとか、いわゆる若者映画を立て続けに観て、その眩しさにやけに心惹かれ、青春ものというジャンルは歳をとった者のためにあるのかもしれないなどと思ってたところに、ストレートな老いの映画を観る形になってしまった。そのせいか、我ながら何だか無意識に“抵抗”でもしているのだろうかと思うくらいに、作品世界に入っていけなくて狼狽した。

 颯爽とした名探偵ホームズのイメージからは程遠い老体と老境に、心中穏やかならぬものが僕のなかで去来したのかもしれない。なぜか日本が登場してくる顛末の件もそうだが、ケルモット夫人(ハティ・モラハン)を巡る“最後の事件”の謎も含めて、何だか取って付けた話を捏ね回しているように思えた。梅崎(真田広之)の件に関しては、日本にはホームズファンがとても多いから、原作者もそのあたりを狙ってきていたのかもしれないなどと思った。

 卒寿を過ぎた老ホームズを演じたイアン・マッケランの功績なのかもしれないが、本作は僕の映画友達のなかでも女性陣には総じて好評で、いささか意表を衝かれるような気がした。老ホームズは男なので女性側には“無意識の抵抗”が呼び起こされなくて済むのかもしれない。もしかすると、この物語を紡いだ原作小説は女性作家の手によるものなのではないかとも思った。老ホームズの世話をしていた家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)の描き方にそのようなものを感じ、原作小説における作者の立ち位置がマンロー夫人にあるような気がした。

 ただ、孫どころか曾孫のような年嵩の少年との関わりがもたらす生命力というか、気力の充実というのは、とてもよく伝わってきたように思う。耄碌しかけているホームズから清新なインスピレーションを引き出してくれる少年ロジャーを演じたマイロ・パーカーが、先ごろ観た『少女』で、メガネを掛けた太一【孝夫の息子】を演じていた少年と同じく目を惹いた。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/16100902/
by ヤマ

'16.10.17. あたご劇場



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