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『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』(The Devil's Violinist) | |||||
監督 バーナード・ローズ
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とても病弱には見えないデヴィッド・ギャレットがパガニーニを演じ、華麗という以上に、実にエネルギッシュな演奏を見せるからか、虚実交えて伝わる逸話を、ある種、網羅的に盛り込んであるせいか、かれこれのエピソードなるものは伝わってきても、彼の人物像があまり浮かびあがってこない作品だったような気がする。作り手の側に、さして確たるパガニーニ像がなかったのではないだろうか。パガニーニを描くというよりは、デヴィッド・ギャレットを見せる映画になっていた。 映画としての造形は多分に『アマデウス』を意識しているように映ったが、人物造形に途轍もなく大きな差があって、そのことが露呈しているように感じた。その点から言えば、遥かに、曲者マネージャーのウルバーニ(ジャレッド・ハリス)のキャラのほうが立っていたように思う。 それにしても、速弾きを見せつけて観衆を沸かせるステージアクションやグルーピーの群がる様子、繰り出される超絶技巧の演奏に失神してしまう女性ファンの姿、メディアやデモ隊を利用したスキャンダラスで背徳的なイメージ戦略などに、まるで僕が若い頃のロック・コンサートのノリじゃないかと呆けていたら、どうやらデヴィッド・ギャレット自身がロックとのクロスオーバーで活動しているらしい。道理でエネルギッシュなはずだ。人物としてのパガニーニについての確たる像はないけれども、音楽家としてのパガニーニは確信的に今のロックスターに重なるイメージを作り手が抱いているように感じた。 演奏場面は、なかなかにたいしたものだ。特に、細い弦から順に切れていって最後に残ったG線一本で演奏した逸話を再現した場面など、見事なものだった。音だけ聴いてこれを堪能できる人は極わずかだろうから、映画の見せ場にはうってつけの場面だった。それにしても、彼の左手の指は凄い。運指もさることながら、長い指で弾くピチカートがダイナミックで圧巻だった。 | |||||
by ヤマ '16. 7.21. あたご劇場 | |||||
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