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『何を怖れる フェミニズムを生きた女たち』(What Are You Afraid Of ?) | |||||
監督 松井久子 | |||||
本作にも登場する社会学者の上野千鶴子さんが来高していて、上映後に話していた本作のタイトルの由来というのが面白かった。なんでも、この映画を企画した「グループわいふ」の田中喜美子代表の指名により本作を撮ることになった松井監督がとりわけ男社会とも言うべき映画界で過ごしてくるなかで、ある種、距離を置くようにしてきた感のある“フェミニズム”ということについて、本作の製作過程で数々のインタビューを重ねるうちに、監督自身が自分の問題として痛感するに至った思いをそのままタイトルにしたのだそうだ。上野さんは、いかにも客足を遠退けそうな題名だと賛意が湧かなかったとのことだが、この話を伺うと“怖れずに”フェミニズムを生きた女たちに対して、松井監督が抱いたであろう思いが素直に表われていた作品のような気がした。 そして、'71年の長野でのリブ合宿から始まる本作を観ながら、今やフェミニズムという言葉に取って代わられたように感じて久しい「リブ」という言葉を久しぶりに聴くとともに、リブを生きた(ている)女性たちの肉声に触れて、政治の季節の終りを迎えた70年代からの今に至る一つの潮流というものを感じた。 いくつも興味深い話があったが、特に印象深かったのは、元NHKディレクターの池田恵理子「女たちの戦争と平和資料館」館長の慰安婦問題の発端に係る松井やよりについての証言と、元那覇市議の高里鈴代「強姦救援センター・沖縄」代表の語っていた、主催者発表で約8万5千人が集まった'95年の「米軍人による暴行事件に抗議し、地位協定の見直しを求める県民総決起大会」にまつわる話、とりわけ歴年の米兵による性暴力被害の全てが明るみに出ることがもし可能であれば、これだけ長きにわたる米軍の沖縄駐留はあり得ないはずだとの言葉だった。 それにしても、榎美沙子が代表を務めた中ピ連の話が全く出て来なかったのは何故だろう。また、上野さんによると本作の出演者中の最年少者で、当時マドンナと呼ばれていた'52年生まれの滝石典子さんが、二十余年前から現在の四万十市に移住してきていることに驚いた。本作でインタビューを受けていた12人の出演者の多くが大学教授などのインテリ層に身を置いているなかにあって一際異彩を放っていたように思う。この日の試写会キャンペーンにも姿を見せており、上映後の上野さんのトークタイムに呼ばれて一緒に発言していて、とても興味深かった。 ご自身の経験を踏まえて、未婚のシングルマザーとなることで極端に女性側のほうが過重負担に見舞われた当時と比べて、今はどうなのかと、他会場に比べて若い世代の姿が目立つと上野さんが喜んでいた客席に滝石さんが問い掛けたことに関して、上野さんが十代の妊娠中絶率が全国トップクラスという本県の統計データと絡め、女性がコンドームの使用を求めにくい状況があるのかと投げ掛けたことに対して、会場からの若い世代からの発言が見られず、『何を怖れる』との題名のドキュメンタリー映画の有料試写会に来場する人々でも、映画に映し出されていた'70年代の女性たちとはメンタリティがまるで異なっていることが窺えるように感じた。 滝石さんが未婚のまま妊娠することで負わされるものについて問い掛けたことに対して、上野さんが避妊の問題を付加することで論点を広げたにも関わらず発言が見られず、会場の年配男性から高知の十代の妊娠中絶率の高さに関連して夜回り先生こと水谷修氏が講演で、よさこい祭りにも一因があると話していたとの紹介発言があった際に、上野さんが「それは論点が違う。セックスをすることの問題ではなくて、妊娠中絶に至らないようにする避妊の問題なのだから」とすかさず正していたのは重要な部分だと思った。また、電話相談員の経験もあるらしい三十代女性が、とある性教育の場で、性感染症予防にも効果がある避妊法として選択肢を挙げた質問に対してコンドームではなく「経口避妊薬」と答えていた女子学生を目撃したことがあると発言したときに、上野さんが絶句して両手を広げる姿を見せた場面も印象深かった。 実のところ、どうなのだろう。会場の若い男性からは「高知の女性は“はちきん”とも言われ、強い女性が多い」との発言もあって、上野さんが「女性が強いのに、どうして十代の妊娠中絶率が高くなるのか」と疑問を呈したのはもっともなことで、僕自身は、この件に関しては、若年人口の流出の激しい地方都市である高知では、若年人口における女性比率が相対的に高くなる傾向にあることも作用して、高知の女性は、若いとき男女関係において男性に対し遠慮し怖れを抱きがちで、それによって十代での妊娠中絶も含め、いろいろな苦労を必要以上に重ねることで、次第に強くならざるを得なくなって“はちきん”と呼ばれるようになることに至ると考えているのだが、せっかく珍しくも若い方が数多く来ているからとアラフォー以下の方の発言を求めますとのことだったので、発言することを控えた。 また、この滝石さんの提起したアフタートークの経過のなかで、『MAZE~マゼ[南風]』の映画日誌に「困ったことに、僕が土佐の地に生まれた男だからなのかもしれない」と綴ったように、僕自身のなかに「いささか時代錯誤的で、男にとって少々虫のいい甘えた男女観…に懐かしいような心地よさを」覚える部分があることを改めて思い出す刺激を与えられたような気がした。この部分は、十代での妊娠中絶率の高い地域に軒並み九州男児を誇る各県が居並ぶこととも相関があるようにも思っている点だ。そして、そういう土佐の地を東京生まれの滝石さんがなぜ敢えて選んだのか、会場からの質問に重ねて私も訊きたかったと上野さんが添えた問いに「映画のなかでも答えていたように」と、地方都市ということでの答えはあっても、僕が『MAZE~マゼ[南風]』の映画日誌に綴ったような意味合いでの“土佐の地”についての回答が得られなかったのが少々残念だった。 | |||||
by ヤマ '15.12. 5. こうち男女共同参画センター「ソーレ」3F大会議室 | |||||
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