「永遠の怪獣映画 昭和の怪獣たち」~昭和の怪獣たち~日本が世界に誇る特撮技術

Aプログラム
『キングコング対ゴジラ(短縮版)』['62] 監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
『モスラ対ゴジラ』['64] 監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
Bプログラム
『三大怪獣 地球最大の決戦』['64] 監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
『怪獣大戦争』['65] 監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二

 破壊されるミニチュアに思いのほか重量感があって見事だった。さすがだ。とりわけ『モスラ対ゴジラ』の冒頭の台風被災シーンには唸らされた。

 また『キングコング対ゴジラ』は未見だったから、短縮版とは言え、ようやく観られてよかった。当時は“視聴率”ではなくて“聴視率”と言っていたことが耳新しかった。ラジオに比べてテレビがまだ新興メディアの時代だったんだなという気がした。こういうところが昔の映画を観る醍醐味の一つで、題材や主題とは直接関係しない映り込みというべきものの豊富さにおいて、映画に勝る表現物はないように感じている。映り込みなればこその証言力の高さという面があって、時代の記録というか証言者として、何気なく映画に映り込んでいる情報ほど貴重なものはないとかねてより僕は思っているのだが、本作の“聴視率”に関しては奇しくも同じことを感じた人がいたようで、ネット検索をしてみると、とても興味深い頁に辿り着いた。

 ブログを書いた人は国立国会図書館のリサーチナビの「テレビ視聴率(特定の番組)」の頁の「『テレビ・ラジオ番組視聴率調査全国結果表』1985-1992、『テレビ・ラジオ番組視聴率調査全国結果表』1976-1984、『テレビ・ラジオ番組聴視率調査全国結果表』1964-1975、『テレビ・ラジオ番組聴視率調査全国・地方別結果表』1963」という調査タイトルに着目していたが、コメント欄に書きこんだ人の意見も成程と思わせるものがあって実に刺激的だった。そうしてみると、上記についてはと同時に、安直に真に受けるのも危険な注意を要するものとの補足が必要だと改めて思う。

 また、TV番組のスポンサー企業として製薬会社の多胡部長(有島一郎)の言っていたことや『モスラ対ゴジラ』で描かれた金と欲にまみれた開発事業にしても、日本が高度成長期に入り、のちに拝金主義が決して一部の者だけではなくなる時代の先駆けが、既に社会風俗として目につくようになってきていることを写し取っていて興味深かったわけで、こういう点では、やはり「何気なく映画に映り込んでいる情報ほど貴重なものはない」と思わずにはいられない。

 驚いたのは、'64年の『モスラ対ゴジラ』がアメリカの太平洋核実験のことを取り上げながら、「むかし行われた原水爆実験」として語られていることだった。放射線を浴びた[X年後]でも示されていたように、アメリカの太平洋での核実験は'62年のドミニク作戦まで続けられており、'64年時点で「むかし」とは到底言えない。国中大騒ぎになったらしい第五福竜丸事件でも'54年で「むかし」と言うには抵抗があるが、「十年一昔」という言葉もあるように、当時においては、むしろ積極的に「十年前の事件を忘れないように」との思いが作り手にはあったのかもしれない。おそらくドミニク作戦のことなど、日本では報じられることなく、伏せられていたのだろう。そのような触発を与えてくれる点でも、やはり「何気なく映画に映り込んでいる情報ほど貴重なものはない」という気がした。

 Bプログラムの2本は、言わずと知れたキングギドラが最初に登場した2作品だ。もう一世代上の先輩たちならいざ知らず、'58年生れの僕の世代だと、やはりキングギドラが出て来てこそのゴジラシリーズだと改めて思った。何と言ってもその造形が見事で、八岐大蛇が原型だとしても、三つにしたのが素晴らしく且つ空を飛ぶのが素敵だ。ゴジラが横綱だとすれば、東の正大関はキングギドラだとも言うべき存在だと思う。

 それにしても、手作り感あふれる画面やら国籍不明の怪しげな外国や南の島の描き方など、今の映画ではもう再現が望めない時代性の刻印が、何とも懐かしく微笑ましかった。映画の上映会場という場における日頃の男女比がすっかり逆転していることや、親子連れ、孫連れと思しき組み合わせがたくさん目についた。映画という表現が備えている“映り込みの価値”への気づきに子どもの時分から出会えると、映画に親しむ層もまだまだ掘り起こされる余地が残されているように思うので、公立文化施設主催の上映会であるならば、単に上映をするだけではなく、そういった刺激を添加する工夫が望まれるように感じた。






参照テクスト:「高知県立美術館HP」より
https://moak.jp/event/performing_arts/post_41.html
by ヤマ

'15. 8.22~23. 美術館ホール



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