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『ぼくたちの家族』 | |||||
監督 石井裕也 | |||||
『川の底からこんにちは』がとても面白かった石井監督の作品なので、楽しみにしていたのだが、公開時には忽ち打ち切られて観逃していたものをあたご劇場でのキネマ旬報ベストテン特集上映で思いがけず観ることができた。 若菜克明(長塚京三)が喫茶店で長男浩介(妻夫木聡)の嫁(黒川芽以)に頭を下げる場面に心打たれた。俊平を演じた池松壮亮の『紙の月』の光太に通じる味わいの率直さがなかなか印象深く、また効いていたように思う。 また、若菜玲子(原田美枝子)の運転する白い車の側面に凹みがあって、事故車とは珍しいと思っていたら、きちんと話のなかで利いてくるようになっていて感心した。浩介の“川の底からの這い上がり”ぶりが、ちょっと佐和子のように見えた。 『川の底からこんにちは』はオリジナル作品だったように思うから、早見和真による実体験を基にした小説が原作だと知って驚いた。突然の事態をきちんと受け止められないで狼狽している父親や鈍いとしか思えない弟に苛立ちながら、嵩に掛かってくるように露わになる両親の抱えている惨状に加えて、迫り来る我が子の誕生という最悪のタイミングのなか、追い込まれる浩介の姿に迫真のものがあった。 いちばん頑張っている自分が母親の認知の外に追いやられているように感じているときの浩介の悲痛と、これ以下はないように感じる“川の底”に落ち込んで、弟からかつての引き籠りの再発を懸念されるまでに至って、一人笑い出した場面が印象深かった。 浩介の這い上がりは、あそこから始まったわけだが、そこから動き始めた家族の運命の好転は、奇しくも俊平の引き寄せたラッキーカラーの黄色とラッキーナンバーの8がダブルで導く運びの良さによって、何だかとても心地よく映ってきた。なかなかこうは撮れないような気がする。そこに前記の喫茶店の場面が登場する。そして、母からも思わぬ労いの言葉が掛かる。 人が生のなかで得られる喜びや満足感のなかで最も迫真性の高いものは、実はこうしたプロセスのなかにこそあるような気にさせられた。ちょっと勇気づけられる作品で、なかなか大したものだと思った。 推薦テクスト:「映画感想*観ているうちが花なのよやめたらそれまでよ」より https://kutsushitaeiga.wordpress.com/2014/05/28/bokutachino_kazoku/ | |||||
by ヤマ '15. 3.12. あたご劇場 | |||||
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