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『川の底からこんにちは』 | |||||
監督 石井裕也
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北海道TVの製作した『ミエルヒ』に描かれた帰郷が、都会の生活で傷ついた者の再起の物語ではなくて、Uターンによる“これまでとは違った生き方への覚醒”を描いていたのと同じように、この映画も都会でやり直す力を得る物語ではないところに好感を覚えた。佐和子(満島ひかり)のUターンに“故郷に帰ったからこそ得られた新たな人生”というものが示されていて、なかなか気持ちのいい作品だった。そして、その気持ちよさは、“投げやりと開き直りの違い”というものを鮮やかに示してくれていたことからきているような気がする。 「いつも振られてばっかなんです…どうせ私なんか、胸、スイカみたいなのじゃないし…しょうがないんです、ハイ。」というような投げやりな自嘲自虐台詞を連発していた佐和子が、五年ぶりに帰郷したことで昔の出来事に向き合わざるを得なくなったのは、都会暮らしのなかで「五つ目の仕事、五人目の男」といった形で取り替えつつ自分を誤魔化していくような余地のない“狭い故郷”だからこそだ。男と子供を連れての帰郷に驚く叔父(岩松了)に、就学前の加代子(相原綺羅)の説明をし掛けて「あー、もう面倒くさい。私の子でいいや。」といった調子で済ます投げやり感に満ちていた佐和子が、狭い田舎に戻り、東京から子連れで付いて来た五人目の男たる健一(遠藤雅)にも出奔されて、残された連れ子と向き合わざるを得なくなったなかで吹っ切れていく姿が、彼女の父親(志賀廣太郎)の言葉どおり実にカッコ良かった。 付き合っている男の連れ子だからとやむなく相手をする際に、定型的な赤ちゃん言葉で対処して、幼い加代子から冷ややかな眼差しを向けられても視野に入れなかった彼女が、投げやりを捨てて開き直りを始めてからは、一緒に湯船に浸かっていた加代子に「ごめん、先に出てて。20分ぐらいボ~っと考えて、それから泣いてくわ」というようなことを語り掛けるようになる。佐和子のその言葉を聞いて黙って頷く加代子がまたなかなか良かった。 五年前に家を出るとき「死ね」というまでの捨て台詞を投げつけた父親に対して100万円の借受を申し出る厚顔さには耐えられなかったと思しき佐和子が、加代子をダシにそれを持ちかける作戦を考えたのは、この20分間だったのかもしれない。 前もって上映会主催者から求められた注目どころのコメントとして「今その出演作を最も観てみたいと思っている女優は満島ひかりなのだが、高知での公開主演作がまだない。ようやく見参となったので、彼女がスクリーンでどう息づいているのかが今回の僕の一番の注目どころだ。物語も川の底のような「どん底」人生から気持ちを建て直し、逆境に立ち向かって前向きに挑む姿を、生き生きと愛らしく映し出した人生“応援”活劇とのこと。少なくとも活劇というからには、説教臭くはないに違いない。チラシの意表を突いたとぼけたデザインからも、ユル~イひたむきさがユーモラスに描かれているような気がして、楽しみな作品だ。」と記していたのだが、まさしくそのとおりの作品で、大いに満足した。 満島ひかりは、本当に大したものだ。いくら人生への“挑戦状”のような映画だからといって、いきなり“腸洗浄”の場面から入っていくなどというのはタダモノではない女優だと思うのだが、観終えると、颯爽とした堂々たる主演作にしてしまっていた気がする。実に見事なものだ。「やっぱ、あんた本当にムカつく男だわ。そんな男なのに、それがいなくなって淋しいと感じてしまうときがある自分が、本当に情けない。」と、自身を全てにおいて「中の下」と断言し、「だから、頑張るしかないんだ。」と開き直るに至った佐和子を描いていた本作は、決して「中の下」ではなかった。 推薦テクスト:「TAOさんmixi」より http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1489268352&owner_id=3700229 推薦テクスト:「帳場の山下さん、映画観てたら首が曲っちゃいました」より http://www.k2.dion.ne.jp/~yamasita/cinemaindex/2010kacinemaindex.html#anchor002015 | |||||
by ヤマ '10. 8.20. 民権ホール | |||||
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