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『ひまわりと子犬の7日間』 | |||||
監督 平松恵美子 | |||||
十年前に『クイール』を観たときも戌年生まれのくせして、「作り手の思いは充分達成されていたように思われるが、犬好きでもない者には少々違和感を与えるような作り」などと記していた僕は、動物愛護ものがあまり好きじゃなくて劇場公開時には見送っていたのだが、本作の撮影を担った高校の同窓生からのメールを受けて録画したものを観てみた。 後に“ひまわり”と名付けられる雌犬の育った序盤のサイレント仕立ての画面がめっぽう美しかった。言葉として意味を持つ人の音声を敢えて排除して、必要最小限を字幕で映し出していたのは、ひまわりのなかで埋もれ眠っていた記憶として描きたかったからなのかもしれない。とりわけ雨のなかトンネルを抜けて犬が走り出ていく一連の場面が印象深く、また、松竹作品らしい自然のさりげない美観が鮮やかだったように思う。 神崎彰司(堺雅人)がたまたま魚肉ソーセージを剥きだしただけでピンと来るくらい、元々の飼い主(夏八木勲)が犬の鼻に零した涙も、魚肉ソーセージも、充分以上に効果的に印象づけられていた、実に際立った序盤だったのに、期せずして彰司によって再現されることになった際そのいずれともカット挿入で説明しないではいられないのは、約束事の内なのか過剰なのかきわどいところだと思った。ただ僕自身は、『一命』の映画日誌に「かくも説明を加えなければ、今の時代の観客には伝わらないというふうに作り手が構えざるを得ない事態になっていることが際立って感じられ」と綴ったことと重なってくるものがあるような気がした。編集に際して果たして議論はあったのだろうか。 それはともかく、犬猫といった小動物と人間とを同じ俎上に載せることに少々抵抗があって、かくも人間がないがしろにされている世情のなかで、殊更に動物愛護が謳われることへの素朴な疑念と違和感が僕のなかにはある。彰司がひまわりに読み取り語り掛けていたような物語は、人間に対して警戒心を剥き出しにし、凶暴に構える捨て犬だけではなくて、荒みに至っている人間においても言えることのはずで、人間に対してこそ、より積極的に向けられるべき想像力なのに、人間とは違ってペットたり得る従順さと愛らしさゆえか、人間よりも動物のほうに優しく寛容な向きが多く見られるような気がしなくもない。 また、彰司がひまわりの物語について気づきを得るきっかけとなる咬傷事故のエピソードは重要なポイントなのに、あれだけ細心で入念な彰司が不用意に仔犬に触れるといった不自然さを端緒にしていたところが少々引っ掛かった。 悪い話ではなく役者の持ち味も活かされている作品だと思うのだが、かつて観た『クイール』同様に「作り手の思いは充分達成されていたように思われるが、犬好きでもない者には少々違和感を与えるような作り」が拭えなかった。奇跡の母子犬の物語よりも、人間同士の奇跡の物語のほうが僕の心には響いてくるのだなと、本作を涙しながら観ている妻を尻目に改めて思った。 | |||||
by ヤマ '15. 3. 9. BSジャパン録画 | |||||
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