『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』['09]
監督 片岡英子


 何を掛けるか予想のつかない老舗映画館が歳末に掛けていたのは、5年前のドキュメンタリー映画。これの前がアメリカ映画の『ジゴロ・イン・ニューヨーク』で、その前がヨーロッパ映画のリスボンに誘われて、その前が韓国映画の『観相師』ときて、この作品のあとは年の瀬からの正月番組にインド映画『あなたがいてこそ』が並ぶという個性的なラインナップなのだが、そのなかでも本作は、ひときわ異彩を放っているような気がする。なぜ今頃で、なぜ、こまどり姉妹なのだろうと、何だか笑いが込み上げてきた。

 そのこまどり姉妹は、僕が市営住宅に住んでいた幼少時に、道を隔てた向かいの家のオジサンが大ファンだった覚えのある往年のスター歌手だが、ちょうど僕より二十歳年長だったことを初めて知った。そして、記憶にある彼女たちが、スターとしての煌びやかな光を浴びながらも、華よりも哀の影が濃かったようなイメージが僕のなかにある理由も分かった。昭和二十年代から三十年代にかけての映像がふんだんに現れて、風俗的な興味深さが大いに刺激されたが、構成的には少々陳腐な気がした。

 映画のタイトルの始まりのところで鳴った「ジャーン」という音は、たぶん『A Hard Day's Night 』の最初の「ジャーン」なのだろう。きつい一日だった、働きづめに働いたとの歌詞に、子供時分から流しの唄で日銭を稼ぎ、ストリップ小屋のステージの幕間でも歌いながら一家を支えてきた姉妹の人生を被せているような気がした。そして、刺傷事件や癌治療、未婚の母などを通じ貧富を繰り返した波乱の人生を生き延びたことでの達観なのか、鍛錬なのか、何ともタフな明るさが圧巻で、若いビートルズのヤァ!ヤァ!ヤァ!の陽性に遜色ないところが凄い。今なお現役を続けていることにも驚くが、5年遅れでの上映をしている田舎の劇場に今回の上映に向けて一言添えたサイン色紙を届けていたことに恐れ入った。

by ヤマ

'14.12.25. あたご劇場



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