『思い出のマーニー』
監督 米林宏昌


 僕は緑色が好きだから、美しい緑色がふんだんに出てくるジブリの画面が好きだ。本作への期待も一番にはそれであって、約束どおり満たされたように思う。

 内容的には、疎外というものを意識することで傷む心のありようを実にセンシティヴに捉えているところに感心しつつも、「なんだか面倒くさい話だなぁ」と少々持って回った感じのある展開にやや食傷しながら観ていたものだから、孫娘への想いが引き寄せた奇跡にしてやられた。作り手の施した演出どおり、僕は杏奈(声:高月彩良)の出会ったマーニー(声:有村架純)を、日本人の中学生が、自身の抱いている疎外感のなかで心の内に見出した分身だとばかり思って観ていたのだが、途中から異界の住人だと思うようになったものの、よもや金髪碧眼のマーニーと杏奈の間にかほどに濃密な因縁があったとは思いもよらなかった。それだけに、思春期に向かう少女の心の危機を救った祖母の想いに心打たれたのだろう。自分が既に五人の孫を持つ身になっていることが作用しているのかもしれない。

 里子に出された幼時の記憶を引きずる形で、あるいは喘息持ちであることで、自身を“普通じゃない”と感じたり、“恵まれているとはどういうことか”などといった内省を重ねずにいられなかったであろうところから周囲に馴染めない感覚を抱くことで、自身を嫌い自ら疎外に向かって行っているように感じられた杏奈の、いかにも扱いにくそうなティーンエイジの危うさの描出が、とても鮮やかだったように思う。思春期に向かう女の子を育てるのは、本当に大変だ。娘との関わりの持ちように難儀した覚えは僕自身にもあるのだが、養母の頼子(声:松嶋菜々子)の辛抱強く慎ましい愛情深さが立派だった。

 親子間に限らず今、世の中の全ての愛情から最も消え去りかけている徳質というのが、この“辛抱強い慎ましさ”だという思いが改めて湧いてくるような作品だった。直には触れ合えないマーニーと杏奈の関係がそうであったように、もどかしいほどに直截的ではないからこそ芯のところに効いてくるものだという気がする。

 それにしても、十年に一度しか口を利かないという十一老(声:安田顕)のマーニーとの関係は何だったのだろう。風立ちぬの菜穂子のような立ち姿で写生画をものしていた久子(声:黒木瞳)は、杏奈にとっての彩香(声:杉咲花)にも似た存在だったようだが、十一はなんだかよく分からなかった。和彦の転生だったりするのだろうか。




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by ヤマ

'14. 8. 1. TOHOシネマズ6



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