『ジョン・ラーベ ~南京のシンドラー~』(John Rabe)
監督 フローリアン・ガレンベルガー


 日本の配給会社が怖気づいてどこも買い付けなかったとの噂のドイツ/フランス/中国合作の問題作を観ることができたのは、嬉しかったけれども、最低最悪の上映会だった。

 最前列の席で途中入退場を繰り返す客が何人もいるし、ブルーレイとはとても思えない画面の暗さ、小ささは、本来のDVD再生機を使わずにパソコンで再生したものをプロジェクター上映していたからなのだろう。これで普通の有料上映にしているのはまだしも、画面がエンドクレジットになった途端に客電が全灯してしまったのには呆れた。

 エンドロールを観ずに退席する客がいるのは珍しいことではないが、客電の全灯などという事態は、長年オフシアターを鑑賞してきた僕も初体験。かすかに映っているクレジットを確認したい客が席を立って、逆に最前列に進み出てきて白けた画面を観ているという前代未聞の光景に、いくら本作が凄絶な虐殺を扱った作品だからと言って映画作品を虐殺するなと憤慨した。アンケートに、最低の上映会だったと記してきた。

 自主上映というのは、必ずしも映画好きがやっているわけではなく、「~を見る会」というような形で行われる単発上映の場合、その映画の扱っている題材やテーマに対する関心が強いだけで、映画のほうは手段にすぎないから、むしろ主催者は、暗いなか退場させるよりも早く明るくしてやるほうが親切だとでもおもっているのかもしれない。

 従前のようにフィルム上映だと、素人が誰かれなく扱うことができないので、業者を含めて、必ず映画上映に詳しい者が加わっていたが、いまのようにディスクになると、素人でも扱えなくはないわけで、こういうとんでもない上映会が出現するようになったのだろう。それにしても驚いた。

 それはともかく、これは靖国 YASUKUNIどころじゃないと、あの映画に騒いでいた稲田朋美自民党政調会長に是非とも見せたいものだと思った。なにせ南京大虐殺事件の首謀者であり責任者として、甥の昭和天皇を持ち出して傲岸不遜に振舞う冷酷非情な朝香宮鳩彦陸軍中将を描き、実に香川照之らしい説得力で演じて見せているのだ。加えて、日本軍の傍若無人で卑劣な蛮行を率直に描いていたから、すっかり圧倒された。かの百人斬り競争の報道の件もしっかり出てくる。稲田政調会長なら、卒倒するかもしれない。

 国際法でも問題になると諌めながらも、朝香宮中将の命令で、虐殺を直接指揮させられた小瀬少佐(ARATA)が、シーメンス社の中国支社長でナチス党員のジョン・ラーベ(ウルリッヒ・トゥクル)の率いる安全区をこれ以上の惨事に陥らせないよう外交吏員のゲオルク・ローゼン書記官(ダニエル・ブリュール)に、朝香宮中将が安全区を狙っているとの情報を内通する場面があったが、徹頭徹尾、朝香宮中将が告発されている作品だったように思う。

 決して二人ともが積極的に臨んではいなかった、ジョン・ラーベが安全区の代表委員でウィルソン医師(スティーヴ・ブシェミ)が代表代行に就く場面と、ローゼンが両方とも筋金入りの頑固者だと評する仲の悪い二人が絶望感に苛まれながら、酔って唱和するナチスを揶揄した替え歌の場面が面白かった。



推薦テクスト:「神宮寺表参道映画館」より
http://www.j-kinema.com/rs201503.htm#johnrabe-nankin
by ヤマ

'14.12.13. 民権ホール



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