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『アナと雪の女王』(Frozen) | |||||
監督 クリス・バック&ジェニファー・リー | |||||
オープニングの氷の切り出し場面のコーラスの余りに力の入った楽曲ぶりに、感心しつつも思わず腰が引け、原題のごとくフローズンしてしまい、その後の展開の大味さにも少々がっかりしていたのだが、戴冠式を済ませ玉座に就いたはずの女王エルサ(声:イディナ・メンゼル)がアレンデール王国の城を出て、北の山に去って行った場面から俄然面白くなった。 恐ろしく孤独な存在であるはずの“雪の女王”が、そうではなくて、王位継承者という運命の元、自己を抑圧し続けて来た挙句、制御しきれない力を持つ自分が去ることが最も民のためになると覚悟を決めてのことだった。そうして、ようやく解放できた自己に伸びやかさと輝きを得るエルサの姿が斬新だった。予告編では何だか仰々しく感じられた♪Let It Go♪の歌唱が胸に響いてきたのは、雪山で思うさま魔力を解放している画面の見栄えの素晴らしさ以上に、大好きな妹アナ(声:クリステン・ベル)を瀕死に追いやってしまった過ちを悔い恐れて、いっさい会わないよう遠ざけ、自室に籠って自分の力を抑え込む鬱屈の日々を何年も重ねてきてのことであり、解き放たれたような晴れやかなエルサの表情の持つ意味がよく伝わってきたからだろう。 ところが、決して悪の女王ではない斬新な雪の女王像の提示に対して、どのように向かう物語になるのかと思いきや、実に古典的な王子様に救われるプリンセスの物語に展開していって暫し萎えたのだが、さすがは『シュガー・ラッシュ』を手掛けたジェニファー・リーが脚本を書いただけのことはあった。 ディズニー的「シンデレラ・コンプレックス」からの脱却と継承を同時に塗り込めるという、まるで『魔法にかけられて』を彷彿させるような見事な意匠を凝らしてあって、大いに感心させられた。凍りついたアナを救い出す力が“王子からの愛”ではなく、“自身の献身愛”であるなどという展開をディズニー作品のお姫様物語で目にするとは思いも掛けなかったし、異性愛よりも家族愛のほうを謳いあげるプリンセス・ストーリーをディズニーが作るとは思わなかった。 だが、確かにアナは、王子様であろうがなかろうが、男に救われたわけではなく、自らの力で切り抜けたと言える展開になっていたけれども、もう一人のお姫様だった雪の女王エルサは、結局のところ、他者に恩恵を与えられずにむしろ人々を遠ざけ苦しめる存在でしかあり得なかったにもかかわらず、ひたすら自分を愛してくれる他者の存在によって救われるという、伝統的な“お姫様キャラ”だった。それも家族だからと言ってしまえば納得するしかない巧みな意匠だと言えるわけで、このあたりの保守性と斬新性の匙加減の絶妙さに感心させられ、『魔法にかけられて』を想起したのだと思う。 いま驚異的なヒットを続けているようだが、おそらくは、アナに対する共感というよりも、この伝統的なお姫様キャラであり、「ありのままの自分になるのよ、二度と涙は流さないわ、輝いていたい、これでいいの自分を好きになって信じて歩き出そう」と歌い上げ、「少しも寒くはないわ」と強がりながら、結局は何も歩き出しはせずに相変わらず自分に閉じこもっていただけなのに、献身的な熱情によって救い出してもらえるエルサのほうに自身を投影してカタルシスを得る女性客に支持され、口コミが口コミを呼んでいるのだろう。 それにしても、雪の女王に「Let Me Go」ではなくて、「Let It Go」と歌われると、高校の卒業アルバムにクラスの言葉として「成れば成る 成らねば成らぬ 何事も 成るも成らぬも 事の成り行き」などと記した僕としては、その是と非を同時に指摘されたようで、いささか苦笑を禁じ得なかった。It というのは、中学のときに習った“シチュエーションのイット”というやつなのだろう。 怖れと不安から城を逃げ出し、成り行きに身を任せ、自己を解放することで自分の気持ちはよくなっても、自身の力を制御する困難に向かう勇気を回避していると、少々遠ざけたところで王国は雪の女王の猛威によって寒さに震えあがっていることを単に自分が目の当たりにせずに済むだけで、何の問題解決にもなっていないことにさえ気付かずにいるに過ぎないというわけだ。確かスパイダーマンも言っていたように思うが、“力を備えた者には、それに見合った責務がある”ということだ。 雪の女王エルサは、その自覚によって事態を打開したのでは決してなかったが、妹アナの献身によって、怖れと不安から抜け出し、その力をうまく制御することができるようになっていた。だからどう、ということではない。事はめでたし、めでたし、なのだ。正統ディズニー映画は、そうでなくてはならない。 また、北の雪山で女王エルサが投げ捨てたアレンデール国の王冠を、雪の女王になって作り出した怪物がエンドロールのあとに拾って回収していたのが、いかにもディズニー作品らしくてよかった。相変わらず隅々まで行き届いたディズニー・エンターテインメントには脱帽するしかない。 推薦テクスト:「田舎者の映画的生活」より http://blog.goo.ne.jp/rainbow2408/e/709d3173483152d27c579c6c024412b3 推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2014/06/post-0439.html 推薦テクスト:「超兄貴ざんすさんmixi」より http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1924263560&owner_id=3722815 | |||||
by ヤマ '14. 4.15. TOHOシネマズ3 | |||||
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