『アルゴ』(Argo)
監督 ベン・アフレック


 CIA実話ネタものとしてはゼロ・ダーク・サーティよりも断然こちらのほうが面白かった。再現性以上に当事者たちの心境の迫真性を優先したであろう演出や編集の手際の良さが効いていて、とりわけイラン脱出に際しての緊迫感は、なかなか見事だった。

 それにしても、CIA内部で中東室に話をつけていなかったというのは、トニー・メンデス(ベン・アフレック)の上司オドネル(ブライアン・クランストン)の手落ちとしてはかなりのものだというべきだが、それ以上に、リカバリーの凄さに圧倒された。トニーの英断というか強引な作戦行動以上に、そちらのほうが感動的だ。あれだけの上司というのは、なかなかいないと思う。されば、オドネルの中東室飛ばしは恐らく確信犯だったのだろう。あまりに意表を突いた作戦に支持が得られないことを見越していたのかもしれない。

 もっとも、それならそれで秘密裏の遂行を決められれば良かったのだが、そうは行かずに中止命令が降りてくる事態を招いたことが救出作戦を指揮するオドネルの落ち度なのだろう。それはCIA内部のことだから、実働部隊であるトニーの落ち度ではなく、責任者たる自らの落ち度であることへの自覚が必死のリカバーに向かわせたような気がする。やはり凄い上司だ。部下の命令違反に狼狽もせず、非難もしない。メンデス以上にかっこよく、スター勲章にふさわしいと思った。

 他方で、思わぬ割を食ったのは中東室だったような気がする。彼らは彼らなりに筋の通った判断をしたのだろう。ただ、作戦行動に待ったを掛けるには手遅れのタイミングだったということだ。メンデスが言っていたように、既に6人を表通りに出してしまい、当局に面の割れた可能性が高い以上、中止の時期は失していたわけだ。結果的に、命令違反の暴走をしたトニーのほうが功を奏した形になって、中東室はさぞかし面目を潰したに違いない。CIAでも最高位の勲功となった作戦行動を阻害しかけた判断を下した責任者はおそらく更迭された気がしてならない。組織の意思決定というのは、実に厄介で、むずかしいものだ。

 しかし、トニーが見舞われたような形の梯子外しほど現場の実働部隊のモチベーションを損なうものはないのだ。命令違反に追い込むような事態を引き起こすのは、組織マネジメントとしては大きなエラーというほかない。そうしてみると、最も責任を問われなければならなかったのは、中東室の進言によって中止命令を出したと思われるCIA長官ではなかったかという気がする。だが、更迭は中東室止まりで長官には引責が及んではいないはずだ。組織における階層とはそういうものだ。



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by ヤマ

'13. 3. 4. TOHOシネマズ1



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